AppleがMac OS XのATOM上での起動を阻止したい理由

以前に、Mac OS X 10.6のアップデートでATOM CPUをサポートするコードを意図的に除去したという動きが観測された。結局、海外のマニアによってこれを迂回するコードが作られ、単なるいたちごっこに終わった。これは、「最初から結果が見えているのにあえてそれを行う」という不思議な光景である。誰もが予想した経過と結果にしかならなかった。 

当時、これはATOMを搭載するネットブック上でのMac OS Xの起動を阻止する「嫌がらせ」的な動きとしてとらえていたが、時間がたってその意図が分かってきた(あくまで個人的に)。 

この動きは、ATOMベースのネットブックをねらったものではなかった、と考えると分かりやすい。起動阻止のターゲットは、ATOMベースの他社製タブレットマシンだ。しかも、「本番」に備えての予行演習程度のものだったのだろう。 

他社製のタブレットマシンは、その多くがIntel系のATOM系列のCPUを搭載し、汎用的な周辺チップを採用。一般的なPC用のOSを稼働させることができ、その中には改変されたMac OS Xも入ってくることだろう。絶対数は多くはないが、Appleにとっての不快感はこの上ない。 

2010年がiPadの立ち上げの年にあたり、他社製のタブレット上でMac OS Xが動くという状況は、自社の花形商品が自社製OSによって売り上げのプレッシャーを受けるという「面白くない事態」を産みかねない。 

こうした図式で2010~2011年の展開を考えると、他社製タブレットの多くが採用するはずのATOM CPUからのMac OS X起動を阻止したくなったとしても無理はない。 

ただ、目下タブレットの生産・出荷のボトルネックとなるキーデバイスはタッチスクリーンとフラッシュメモリーであり、とくに後者は年間生産量が限られているため、iPhone/iPodシリーズを通して大口顧客となっているAppleが優先して確保することが可能だろう(価格次第だが)。 

つまり、2010年いっぱいはiPadやiPhoneの潤沢な需要を背景に、他社に安価なフラッシュメモリーが出回ったりはしないのではないか(自社でフラッシュメモリーを生産している会社は別として)。結果として、他社製のタブレット機にはそれほど大容量の記憶媒体が搭載される可能性が低い、とも読める。事実、現時点で製品化が噂されている他社製タブレットPCは、4Gバイト程度の記憶容量しか持たず、これではMac OS Xはインストールできない。 

実際、フラッシュメモリーを使用した高速な記憶媒体であるSSDを生産しているメーカーの話として、2010年中はiPadなどの大量需要が見込まれておりSSDを現状以上に大容量かつ安価に提供することは難しいだろうとの見通しが紹介されている。 

■Apple’s iPad could delay its move to SSDs 
http://www.htlounge.net/art/11614/apple’s-ipad-could-delay-its-move-to-ssds.html 

■DIGITIMES 
http://www.digitimes.com/NewRegister/join.asp?view=Article&DATEPUBLISH=2010/03/04&PAGES=PD&SEQ=218 

その結果として、2010年いっぱいは他社製タブレットPCのプレッシャーをAppleがそれほど感じることはないものと見る。年初にMicrosoftが紹介したHPのタブレットPCも、その登場は2010年後半~末と見られている。 


その一方で、Apple自身が来年(2011年)ぐらいにはMac OS Xベースのタブレットを市場に投入すると言われている。 

http://journal.mycom.co.jp/news/2010/02/02/083/index.html 

AppleがiPhone OS系のタブレット機(iPhone、iPod touch、iPad)と、Mac OS X系のタブレット機を別々に用意しているという予想(
かなりの割合で願望を含んだ予想)をこれまでに行ってきたが、Mac OS X系のタブレット機が搭載するのはARM系のCPUではなく、Intel系のCPUだ。 

Appleがタブレット用にMac OS Xそのものをある程度修正したり機能追加したりしてくるのか(
Mac OS Xはマウスカーソルが存在することが前提の機能で構成されている)、そのあたりの話は現時点では分からないが、これがARM系を搭載することはない。現在のMac OS X自体が、Intel系CPU+周辺チップに最適化されている部分が多い、というのがその理由と考える。 

このぐらいの話をまとめてみたところで、1つの疑問にも行き当たった。 

「2011年あたりにMac OS Xベースのタブレットを発表する」という話を誰が言ったのか……ニュースソースが明らかにされていない。明らかにする必要もないのだが、重要なのはこれが本当のことだという保証はどこにもないということだ。

情報だけ流しておいて、様子を見て……実際にはその時期に出荷しないといった話は多いにありえる。また、正式にアナウンスしたわけでもない製品の出荷を「予定どおり」に進める必要もない。 

揚げ句の果てには、この「2011年にMac OS Xベースのタブレットを出荷」という話自体が、「論理爆弾」である可能性すら考えられる。

いずれにしても、その「Mac OS Xベースのタブレット」はすぐには現れないし、その前にWWDCで発表ないし開発者向けの公開が行われることだろう。推測を行うための十分な材料はいずれ手に入るはずだ。

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