Appleのタブレット機について詳細はまるっきり分っていないが、そのCPUはAppleが2008年に買収したP.A. Semiという会社が作った製品を採用することが(噂の上では)確実視されている。
だが、そのP.A. Semiなる会社の詳細についても、これまたまるっきり分っていない。「謎の会社」といった趣である。
http://en.wikipedia.org/wiki/PA_Semi
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P.A. Semiとは、Palo Alto Semiconductorの略。自社では生産施設を持たないファブレス企業で、2003年Daniel W. Dobberpuhlによって創業。同氏はDEC Alpha 21064やStrong ARMの設計で主導的な立場を果たした。
P.A. Semiは昨今のItanium、Opteron、Ultra SPARCなどの設計で働いた経験を持つ150人のエンジニアを雇用。2008年に262億円でAppleに買収された。
P.A. Semiは強力でエネルギー効率の高いPowerアーキテクチャのプロセッサである「PWRficient」(PA6Tコアベース)の開発に注力している。PA6Tは10年続いたApple-IBM-MotorolaのAIMアライアンスの枠組みの外で、ゼロから設計されたCPUコア。
PWRficientプロセッサは2007年Q4に全世界的な販売が開始され、限定的な顧客に向けて出荷されている。
P.A. SemiはPWRficientプロセッサのプレミアユーザーとなる可能性のあるAppleとの間柄が噂されてきた。だが、その間柄もAppleがPowerアーキテクチャからIntelへすべての製品ラインナップを移行させたことで終焉を迎える。
■Appleによる買収
2008年4月23日、AppleはP.A. Semiの買収を発表した。Intel移行以前のAppleとP.A. Semiであれば、AppleはP.A. Semiのプロセッサを使うこともあり得ただろうが、P.A. SemiのプロセッサはAppleが現在採用していないPowerアーキテクチャのプロセッサのみである。現在、AppleはARMとx86プロセッサのみを使用している。
WWDC開催中の2008年6月11日、Steve JobsがP.A. Semi買収の目的について、同社の才能あふれるエンジニア達をAppleの戦列に加え、iPodやiPhone向けのカスタムチップ設計に協力させるためだ、と語った。
P.A. Semiは、IBMから取得したPowerアーキテクチャのライセンスを買収企業(Apple)に移転させた場合には、彼らのPWRficient PA6T-1682Mチップの供給終了を表明していた。
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「P.A. Semiのプロセッサ」がPowerアーキテクチャである以上、それをそのまま採用することはないだろう。Steve Jobsの性格を考えれば、別れた彼女にもう一度デートを申し込もうとはしないだろう。
そして、Mac OS X 10.6でPowerPCアーキテクチャのサポートをやめた以上、Mac OS XであればPowerPCの採用はない。別の事情で、ゲームのデータやグラフィックデータがARMおよびIntel系のLittle-endianで作られていることを考えると、iPod/iPhone系でPowerPCプロセッサを採用することもない。
元P.A. Semiのエンジニアが担当している業務が、チップ設計にあることは間違いないだろうが、それが「何」なのか不明だ(十中八九、ARMコアのCPUだとは思うが)。
カスタムCPUの設計というのは、時間がなさすぎるのでないだろう。仮にIntelからライセンスを取得し、外販しないという条件下でx86互換の省電力CPUを作っていたとしても……やはり、時間がなさすぎる。CPUのバグ取りには時間がかかるものであるし、設計段階で問題がなくても製造段階で問題が出るといった話は日常茶飯事だ。
だが、周辺チップの設計という話も眉唾ものである。だいたい、新たに起こさなくてはならない周辺チップなど、何かあるというのだろうか?
以前は、メモリからCPUからGPUからすべて1チップ化するSOC(System On Chip)の流れが加速するものだとばかり思っていたものだが、SOCが万能というわけでもなく、異なるジャンルの回路の設計の足並みが揃わないと、一部分だけおっそろしく時代遅れなSOCが出来上がるとか(auが採用したMotorolaのSOCはメモリ容量が少なくてひどいシロモノだった)、なかなか生産に移行できないとか……デメリットも見えてきている(すべてがそうだとは言わない)。
結局、P.A. Semiの(PowerPC系の)CPUをAppleのタブレットに採用する、という話は成立しないということを確認できただけだった。依然として、判断材料が少なすぎる。
せめて、P.A. Semiに未発表製品(ARMかx86系の超低消費電力CPU)が存在して、それがAppleに買収を決意させた……とかいうストーリーだと分りやすいのだが。