AppleScriptの黎明期の話を読んでみた

自分がMacintosh IIsi(68030 20MHz/RAM 17MB/HDD 230MB)を初めて買った頃に、ちょうどAppleScriptが登場していた。1993年ごろのことだ。 


その頃の出来事について調べたことはあまりなかった。だが、いまも第一線で活躍している人物の中で、どうしてこの人物が中心的なポジションにいるのか分らない人たちもいる。 

たまたま調べものをしていたら、テキサス大学オースティン校 コンピュータ・サイエンス学科のウィリアム・クックという人物の書いた「AppleScript」というドキュメントにたどりついた。 

http://www.cs.utexas.edu/%7Ewcook/ 
http://www.cs.utexas.edu/%7Ewcook/Drafts/2006/ashopl.pdf 

このGW中に見つけて、旅行先で夜に読んでみたりしていたので読破するのに数日かかった。 

読んでみて、すべての人物の動きが明らかになったわけではないのだが、Apple社内の動きはいくらか明らかになってきた。想像していたよりも、はるかに短期間で作られたことに驚いた。

AppleScriptプロジェクトは、1990年代初頭に何度かプロジェクトメンバーが入れ替わりつつ、引き継がれてきたもののようだ。まだラリー・テスラーがAppleにいた(1997年まで在籍していたというのは、意外だったが)時代というから、はるかかなた大昔という印象を受ける。1993年の開発チームの解散以降は、規模縮小のうえOpenDocのプロジェクトなどとくっついていたようなので、よく生き残ってこられたものだと感心してしまうほどだ。

結論からいえば、そこから何か洞察を得られたり、お得な情報が見つかったわけではない。ただ、読み物としては面白かった……といったところだろうか。40ページもあるテキストだが、たいして情報量があるわけではない(ラスト4ページぐらいは引用元の情報リストだ)。 

自分が知らなかったのは、AppleScriptのDialect(方言)の1つに、「Professional」というものが用意されていたということ。当初、英語、日本語、フランス語の3つの表現形式のほか、この「Professional」があったのだとか。 

AppleScript英語形式:

  the first character of every word whose style is bold


AppleScript Professional形式:

  { words | style == bold }.character[1] 


Professional形式については、開発も行われたが、結局は出荷されなかったのだそうだ。


ドキュメントに書かれている内容を時系列でまとめてみると以下のようになる。

1989年

ATG(Apple Technology Group)で、Mac OSのユーザー向けスクリプティング言語を開発するFamily Farmプロジェクトが始まる。ラリー・テスラーがリーダー。 メンバーはMike Farr, Mitchell Gass, Mike Gough, Jed Harris, Al Hoffman, Ruben Kleiman, Edmund Lai, Frank Ludolph


1990年

HyperCard 2.0が出荷される


1990年中盤

Family Farmプロジェクトの最初のスピンオフプロジェクトとして、スクリプト言語の基盤となるAppleEventの開発が始まる


1991年4月

ウィリアム・クック、Appleで働きはじめる。AppleEvent Managerの最終β段階。この夏発売予定のSystem 7にAppleEvent Managerを一緒に出荷すべく計画される


1991年中旬

LispやSmallTalkなどの既存の言語のランタイム上にAppleScriptシステムを構築することが検討される(結局廃案になって、Appleが自力でランタイムを開発)


1992年

AppleScript対応のHyperCard 2.2リリース

1992年2月

ウィリアム・クック、Kurt PiersolからAppleScriptに関するアイデアを聞く。AppleScriptのα版がリリースされる。Dave Winer(SOAPとかBlogの仕組みを開発した人)がUserland Frontierの初期バージョンをリリース


1993年4月

AppleScript1.0 Developer’s Toolkitをリリース


1993年1月

AppleScript 1.1の次バージョンにさらなる機能追加を行うことをAppleが決定


1993年9月

AppleScript 1.1リリース。はじめてのエンドユーザー向けのリリース。AppleScriptのオリジナル開発グループが解体される。ウィリアム・クックがAppleを辞める(1993年内の時期不明) 

1994年

FaceSpanリリース


1997年

ScriptableなFinderリリース


1997年7月

System 8と一緒にAppleScript 1.1.2リリース

1998年

Apple、AppleScriptシステムをPowerPCネイティブコードで再コンパイルするプロジェクトを立ち上げる


1998年10月

AppleScript 1.3リリース。PowerPCネイティブコード、Unicode対応。ただし、AppleEvent Managerは68kコードのまま。英語表現以外のAppleScriptのDialect(方言)サポートが廃止になる 

2002年

AppleScript Studioリリース



AppleScript自体、1993年以降は、かなり場当たり的に機能追加が行われてきた印象を受ける。 また、ウィリアム・クックがどのような立場でこのプロジェクトに関わっていたのかが不明だ。組織としてはラリー・テスラー主導でありつつも、実質的な主導的役割をウィリアム・クックが担ったということなのだろうか? また、乱暴な言い方をしてしまえば彼がAppleScriptプロジェクトに関わったのはほんの1年ぐらいの間だけだ。

AppleScriptのオリジナルの開発コンセプトとしては、「自然言語で記述すればそれがそのまま実行される」という線を目指していたそうだが、実際のところは「自然言語もどき」の言語になってしまった、とウィリアム・クックは述懐している。 


ただ、AppleScriptを自然言語っぽく書かれると(日本人的には)めちゃめちゃ可読性が落ちるので、まあそんなもんでいいんじゃないだろうか。Theとかaとかitとかthatなどがてんこもりのプログラムは読みたくないものだ。

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