体験をもとに語る、iPadにおける「電子ブック」(2)

世に流通している電子ブックというものを、iPad上で読んでみた。電車の中、自宅、休みの日に喫茶店のテラスなど、あらゆる場所で読んでみた。ほとんどは家の外、電車の中というパターンが多かった。


・産經新聞HD

・i文庫HDで青空文庫(明治以降の文学作品が中心)

・iBooks上で「Winnie-the-Pooh」

・ビューン上で各種雑誌

・マガストア上で「Mac Fan 2010年8月号」

・ebiReader(eBook Japan)で「ゴルゴ13」

・Y!コミックで各種マンガ

・VoyagerBooksで「極端に短いインターネットの歴史」

・MacMagazine

・日刊スポーツ

・京極夏彦「死ねばいいのに」

・GQ

・クーリエJAPON 7月号

・ラーメンWalker 東京版


ここで言う「電子ブック」とは、主観的に電子ブックとして流通しているソフトウェアおよびデータであり、(1)「小説」「書籍」(文字が主体の読みもの)、(2)「雑誌」、(3)「マンガ」の3種類に大別できる。


・産經新聞HD

(1)i文庫HDで青空文庫(明治以降の文学作品が中心)

(1)iBooks上で「Winnie-the-Pooh」

(2)ビューン上で各種雑誌

(2)マガストア上で「Mac Fan 2010年8月号」

(3)ebiReader(eBook Japan)で「ゴルゴ13」

(3)Y!コミックで各種マンガ

(1)VoyagerBooksで「極端に短いインターネットの歴史」

(2)MacMagazine

(1)京極夏彦「死ねばいいのに」

(2)GQ

(2)クーリエJAPON 7月号

(2)ラーメンWalker 東京版



(1)小説、書籍

iPad上でこの手のコンテンツを見せるのも読むのも、一番難易度が低いと思われがちである。だが、iPad上で快適に読ませるためには、いくつもの配慮が必要なことが分った。

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夏目漱石などの古典文学作品をiPad上で読もうとして、「i文庫HD」で青空文庫のデータを読んでみて、その読みにくさに驚いた。文字を拡大するだけなら、ピンチ(拡大)操作で行えるが、文章は一部分を拡大して読めるものではない。つまり、「通常倍率でも読みやすくする配慮」というものが欠かせない。

通常倍率でも読みやすくする配慮というのは、こういうこと(↓)である。

文章を連続して、


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のように見せるのではなく、これに読みやすさに配慮して改行を加えるというのが1つ。


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これがないと、異様に読みにくい(本当)。

さらに、文章内容自体にも配慮を行って、セリフが主体の文章にするとか、そういうケータイ小説のような配慮も必要になってくる。実際、京極夏彦の「死ねばいいのに」ではセリフ主体の文章構成になっており、ひじょうに読みやすい。

そのうえ、「死ねばいいのに」では主人公のセリフの文体を若者言葉にすることで、主人公のセリフが文体だけで区別できるような配慮まで行われていたり、同時に登場する人物の数を2人にすることで、「誰と誰が」会話しているかを、わざわざ「○○が言った」などと書かずとも明らかになる。京極夏彦すごすぎである。さすが、言葉のプロフェッショナルだ(プロデューサーの腕によるものかもしれないが)。


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あとは、使用フォントの問題。OS標準のヒラギノは読みやすいことは読みやすいのだが、他のフォントを使用したほうがよい場合もある。

かように、「死ねばいいのに」は強烈なエンジニアリングが行われた作品であることが感じられた。

コンパクトディスク(CD)も、登場時に売られていた「Demonstration Disc」の出来が秀逸で、あとから評価しても秀逸な出来だった。もしかしたら、電子ブックの歴史を10年後に振り返ったときに、この「死ねばいいのに」が電子ブックの最高峰として語られるかもしれない。


(2)雑誌

分厚い雑誌は持ち歩くのもイヤだし、自宅に置いておくのも場所をとられて困る。電子ブック化するのにこれ以上向いているコンテンツはないものと思われた。

雑誌のレイアウトをそのまま電子データ化して、レイアウトがそのまま維持された形で読めれば、良好な読書感が得られるのではないか……というのが、事前の予想だったのだが、


これが完全な間違いであることが分った。


雑誌のレイアウトをそのまま電子ブック化しても、読みにくいことこのうえない。もっと画面サイズが大きければ(17インチぐらい?)快適かもしれないが、iPadの画面サイズではつらい。もしかしたら、アルファベットで記述する英語などの言語であれば事情は違うのかもしれないが、日本語の雑誌を雑誌レイアウトでそのまま読むのは、苦痛でしかなかった。

やはり、文字は文字で……写真や図表は別途入れるぐらいの、新聞に近いレベルの素っ気ない構成にしないと読めたものではない。むしろ、新聞というフォーマットの優秀さを痛感することとなった。


(3)マンガ

電子ブック向きのコンテンツとして期待し、実際にパソコン向けのデータ配信サービスなども利用してきたものだが、これをそのままiPad上で読むのはつらかった。

拡大縮小操作をいちいち行わなくてはならないのは、かなりつらい。iPad上(他の電子ブックリーダーでもそうだが)でいちいち拡大しなければ読めないのでは、肝心のマンガの内容に没頭できない。

マンガの電子ブックというものは、たいていはマンガの単行本を電子データ化しているが、その元になっているのはマンガの雑誌であり、iPadよりもはるかに大きな判型の紙である。これをiPad上でそのまま見せても、読みにくいことこのうえない。

iPadならiPad、KindleならKindle向けに、拡大操作を行うことなしに読めるようにコンテンツ自体を再構成する必要が生じてくることだろう。マンガのコマ割りには演出上の必然性があり、機械的に切り貼りすることには問題を感じる。そのあたり、もう少しいろいろな試行錯誤が必要なコンテンツであることを痛感する。



こうした読書感をもとに、冒頭であげたコンテンツをA(最高)、B(普通)、C(よくない)の3段階に評価してみる。


A 産經新聞HD

C i文庫HDで青空文庫(明治以降の文学作品が中心)

A iBooks上で「Winnie-the-Pooh」

C ビューン上で各種雑誌

C マガストア上で「Mac Fan 2010年8月号」

B ebiReader(eBook Japan)で「ゴルゴ13」

A Y!コミックで各種マンガ

A VoyagerBooksで「極端に短いインターネットの歴史」

B MacMagazine

A 京極夏彦「死ねばいいのに」

C GQ

C クーリエJAPON 7月号

C ラーメンWalker 東京版


あくまでも、私個人の主観にもとづく評価であり、主観および価値観がその評価のベースになっていることをご理解いただきたい。ただし、せめてこの評価に対して意義を唱える場合には、実際にコンテンツを購入してiPad上で実際に電車の中などで読んでからにしてほしい。

iPad登場時にマスコミが安易な待望論を煽っていたが、もっと慎重かつ長期的に育てていくべきジャンルである、との認識を自分は持つようになった。このような認識が広がるには、まだ半年〜1年ぐらいは必要だろう。

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