HDR合成対応のデジカメが普及価格帯で続々登場

HDRとは、High Dynamic Range……明るい写真/普通の写真/暗い写真を連続して撮影し、合成することでJPEGの8ビットの表現を超えるレンジの表現を行う。本来、CCDなどの撮影素子が苦手な「明るいところから暗いところまでまんべんなく写っているような写真」をコンピュータの計算で作成するもの(ざっくり要約してみた)。 

http://ja.wikipedia.org/wiki/ハイダイナミックレンジ合成 

うまく合成すると、人の目で見たような写真とか、
この世の終わりのようなダイナミックな光景などを描写できたりする。 


……で、ここ数年「デジカメの写真はHDRに進むしかないよね~」と、いろいろな研究プロジェクトを行ってきた。本当に各種実験を行って、自分の思い通りのパラメータ変更ができるようなカメラは50万円クラスのものしかなくて、なかなか難しいものだと思っていた矢先、ようやく国内のデジカメメーカーがHDR合成を、割と手ごろな価格のカメラに載せてきた。 

安価なデジカメでも連続して高速撮影できるようになってきたので、HDR合成がやりやすくなってきたのと、「めぼしい新機能として、HDR合成ぐらいしかフロンティアが残っていなかった」という事情もあることだろう。 

デジカメの発達は、とにかく画素数を増やして、銀塩カメラに近づけ追い越せという方向に進んできたが……1,000万画素を超えたあたりで「もう、いいんじゃないの?」という空気が漂ってきた。 

さらに、携帯電話に搭載されたカメラが高性能化するにおよんで、コンパクトなデジカメの市場は携帯電話によって喰われに喰われまくった。 

そのあたりから、デジカメの新機能競争は、フェイスキャッチ(顔認識)とか、高速撮影とか3D撮影などいろいろ試行錯誤が行われてきたが……どれもこれもいまひとつ。やっぱり、HDR合成ほど分かりやすくてインパクトの大きい機能はない。メーカー側の研究開発の進捗は時間の問題だと見ていた。 

HDR合成をデジカメが搭載するというのは、単にカタログ上の機能が1つ増えるというだけの話ではない。自分はこれが、「『写真』という言葉の定義が変わるぐらいの画期的かつ歴史的な動き」だととらえている。 

写実的かつカメラ的な「写真」ではなく、「あきらかに絵作りされた写真」に舵を切りかけている最中……と、いえるだろうか。シャッターを押すと「ウソの絵」が取れるわけだ。 

19世紀にはじまった「写真」というアーキテクチャそのものの大転換であり、文字で書けば、「写真」から「
写虚」に変わったぐらいの違いがある。 

ただ、大手デジカメメーカーでも「写真」へのこだわりが大きいと思われる富士フィルム、キヤノン、オリンパスなどは採用していない(絶対に研究開発はしていると思うが、製品化については上層部がゴーサインを出していないのだろう)。 


2009.02.25 
■リコーのHDR:ハイダイナミックスレンジ   デジタルカメラCX1 ダイナミックレンジダブルショットモード 
http://bp.cocolog-nifty.com/bp/2009/02/cx1-12ev71cx1-c.html 
画像処理エンジンと撮像素子の一新により高速連写が可能に。これにより、露出が異なる2枚の静止画を高速で連続撮影して、それぞれの適正露出部分を合成した画像を記録する「ダイナミックレンジダブルショットモード」の搭載を実現し、ダイナミックレンジを最大12EV相当まで拡大可能。人の目で見た印象と近い画像の記録が可能。 

2009.08.21 
■パナソニック、HDRイメージに対応した「LUMIX DMC-FX60」 
~手ブレ補正効果とAF速度が従来比2倍に 
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/20090728_305396.html 
同社で初めてとなる新シーンモード「ハイダイナミックモード」を搭載した。ハイダイナミックモードは、明暗差のある1枚の画像で、ハイライト部を適正に露光することで白トビを防ぎ、暗部には「暗部補正」を強めにかけることで黒ツブレを軽減した写真を得られる機能。人間の見た目に近い画像になり、逆光の風景や夜景などに適するという。ハイダイナミックモードは通常の「スタンダード」のほか、効果を強めにする「アート」とモノクロになる「B&W」を選択できる。 

2010.02.05 
■SONY サイバーショット DSC-TX7 
http://www.jp.sonystyle.com/Special/Camera/Cyber-shot/Dsc-tx7/index.html 
「逆光補正HDR」は、1回のシャッターで、「明るい部分」と、「暗い部分」を記録した2枚の写真を自動的に撮影して合成。撮影シーンごとに最適な階調再現を行なうことで、これまで写しきれなかった逆光での撮影など、光と影のディテールを最適な露出で残せます。 


これらに先立って、SONYのα開発チームへのインタビュー記事が掲載されていた。これが一番参考になるだろう。 

■ソニーα550の「オートHDR」とは 
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/interview/20100122_342278.html 
ソニーが2009年10月に発売した「α550」は、同社の国内モデルで初めて「オートHDR」機能を搭載したデジタル一眼レフカメラだ。これまで、HDRイメージの作成には三脚が必要なことがほとんどだったが、α550では手持ちでのHDR撮影が可能になっている。 


たしかに、HDR撮影にはこれまで三脚が必須だった。明るさが異なる写真を複数撮影して、その後で合成しなければならないHDR合成は、高速連続撮影が必須条件だ。 

デジカメ単体で行うHDR合成は、手持ち撮影で連続して複数枚の写真を撮影する必要があり、さらに画像合成をデジカメに載っている程度の非力なプロセッサで行う必要があり、さらにさらに……これまで人の目で見て合成時(正確に言えば、合成後に8ビットのJPEG画像にどう落とし込むかというトーンマッピング工程)のパラメータ調整をおこなってきたものを、機械が行うことになるわけなので……そのあたり、膨大な量の撮影を行ってパラメータを統計的に用意しておくしかないだろう。 

あと、HDR合成向きの写真と向いていない写真がある。明るい昼間の屋外で撮影してもあまり意味がない。明け方とか夕方、真夜中の街中などの撮影に威力を発揮する。しかも、近景ではなく遠景。複数枚撮影するので、近くのものだと移動してしまい、合成後のイメージがブレたりするだろう。 

酒の席でHDR合成カメラについて話をしてみたら、「HDR合成時には、内蔵プロセッサの消費電力が増えて、バッテリー寿命が短くなる=稼働時間が短くなる」のではないか? との指摘があった。たぶん、そうなるだろう。どのぐらい差が出るのか、これも明確にしておきたいところだ。 

それぞれのカメラでどの程度HDR合成の結果が異なるのか、ぜひ実際に試してみたいものだ。むむっ!

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