Mac OS X 10.7を予想する

よくもまあ飽きもせず、これまでにいろいろ予想してきたものだと思うが、Mac OS Xについて予想してきたことは、だいたい実現している。 

64ビット化やIntel移行などは、だいたいの過去の実績から推測できたことで、予想するのが「楽」な部類に入るものだった。「密結合クラスタの実現」(スケーラビリティの向上)という路線は外してしまったが、クラスタを組むよりもマルチCPUコア環境でプログラムの並列実行を行えるようにする方向や、GPUとの協調分散処理を行う方向に進化した。コンピュータ環境が抱えている「問題」は明確なので、それを実現するための「方法」がやや予測と違っていた、ということだ。 

そうしたことを踏まえて、10.6の次のMac OS X 10.7というものがどういうOSになるのか……そこを考えてみた。 


まず、10.6がどのぐらいの寿命のOSになりそうか、という話がある。私の予想では2年だ。Mac OS X 10.6は10.7のための環境整備のためのOSに過ぎない。2011年には次のMac OS X 10.7が出るはずだ。このあたり、Windows 7の後継のWindows 8(仮称)も近いタイミングでアップデートを行うはずなので、なかなか興味深い。あるいは、GoogleのChrome OS(2010年後半リリース予定)の利用が広がって、Windowsの方はアップデートどころではなくなっているのかもしれない。Windows XPという身内にいる最大のライバルに加え、Chrome OSにどの程度「市場」を持って行かれるのだろうか?


話を戻して……Mac OS X 10.6の製品寿命について、MOSA Software Meetingの席で、ライターの海上氏に質問してみたところ、だいたい同様の予想を得た。ただし、2011年の8月末になるのか、2012年の1月になるのかについては、開発中の機能の進捗度合いに依存する。たいていは、早く出ることはないので2012年の1月というのがMac OS X 10.7リリース日の(目下のところの)候補だ。 

Mac OS X 10.7のテーマは2つあると考える。ひとつは、iPhone OS/iPod touch OSとの「統合」だ。たとえ根っこの部分が一緒だとしても、別々のOSを開発し続けるのは、Appleにとって負担が大きい。また、2年後には、ARM系CPUの処理能力も向上して、フルスペックのMac OS Xが無理なく動くようになるかもしれない。 

1つのOS上で両方のアプリケーションを動かすことは可能だろうか? 少なくとも、Mac上でiPhoneアプリケーションを動かすことは可能だ。実際に、iPhoneシミュレータ上ではiPhoneアプリが動作している。iPhoneアプリをDashboard上で動かすような世界観は、容易に想像できることだろう。 

問題は、その逆にiPhone OS上でMacアプリを動かすことだ。現在のiPhone OSはMac OS Xのサブセットというよりも、Mac OS X上に実装されていないフレームワークを多数含む、別バージョンといった趣きになっている(このへん、MOSA software meetingで確認)。それでも、Mac OS XにあってiPhone OSに存在しないものは多数ある。 

そこで、すべて共通のMac OS X 10.7という土台の上で、iPhoneアプリはiPhone的なフレームワークにしかアクセスできず、Mac OS XアプリはMac的なフレームワークにのみアクセスできるようにしたらどうだろう? Mac OS X上で常時走っている多数のサービス(デーモン)をそのまま動かすことができる(動かしてもバッテリーがもつ)、という前提で考えれば、不可能な話ではない。 

そこまでは可能なのだが、こうして考えるとますますiPhone/iPod touchのCPUがIntel系になる必要がある。OSの方向性から将来のハードウェアの方向性を模索すると、自然とそうなってしまう。数年前から予想していることだが、この結論しか出てこない。どこかで、ARM系のiPhone/iPod touchからIntel系のiPhone/iPod touchに切り替わるタイミングが出てくることだろう。Intel上のARMエミュレータか、Intel/ARM両方の命令を解釈できるCPU、といったものがあると無理なく移行できそうだが、いまひとつ分からない。


このあたりの将来的なiPod touch/iPhoneが採用するCPUに対する回答は、来年早々にもたらされるだろう。おそらくiPhone OSを搭載してくるであろうAppleタブレットがどのCPUを採用するかによって、見えてくるはずだ。

Mac OS X 10.7のテーマがもうひとつ。クラウド対応だ。ただし、クラウドとひとことに言っても、いろいろある。すべてのアプリケーションがクラウド上で動作するパターンと、ローカル/クラウドが協調して動作するパターンだ。自分は、Appleが後者のアプローチを採用するものと考える。そうしなければ、自社の強み(ハードとソフトの密な連携)が発揮できないからだ。 

このクラウドサービスはMobile.meの延長線上にあるもので、iPhone上でタスク指向のCPUパワーが必要な処理をクラウドに行わせるというものになることだろう。このクラウドは、日常的なすべての処理をiPhoneだけで行うためのパワフルな外部演算エンジンという位置づけだ。もちろん、日常的な処理の範疇(はんちゅう)に入らないものは、このかぎりではない。Macで処理してくれ、という話になるだろう。 

このほか、Mac OS X10.7では64ビット化+搭載メモリ量の増量+マルチコアCPU(最低でもQuad)といったハードウェア環境を最大限に活用したアプリケーションを標準搭載してくることだろう。 

それは、標準搭載のアプリケーションに分析的な機能を付加したようなものになることだろう。 

Mail.appでは過去のメールのやりとりが瞬時に分析/表示されたり、Safariでも指定ページの時系列的な変化をTime Machineのようにアニメーション表示したり……iCalでは、過去数年間のスケジュールの傾向から来月に発生しそうなことがらをリストアップし、アドレスブックではメールやiCalの傾向から人物情報に重みづけやグルーピングを自動で行ったりする。 

iLife/iWorkアプリケーションでも、大容量のデータを分析的に処理するような機能が付加されることだろう。 

音声認識のためにカメラが併用されるようになり、iSightカメラがとらえた口の形や表情やジェスチャーを加えて、音声認識の精度が著しく向上する。現在iPhotoで蓄積している「人々」のデータからカメラに映る人の名前を検出するようになる。ログイン時のパスワードに「ポージング」とか「百面相」といったものが使えるようになるかもしれない。 

最も64ビット化/マルチコア化の影響が出てくるのが、メールの返信。返信相手の過去のメールの文面を分析して、状況に応じて返すべき適切な文章を生成してくれるようになるだろう。そして、そのような高機能なメーラーにおいてはタイピングという作業がほとんど必要なくなってしまう。生成されたいくつかの候補文から適切なものを選択する、という返信作業になるだろう。 

Keynoteのプレゼンでは、3Dデータを併用して概念を分かりやすく説明できるようになったり、Pagesのドキュメントをクラウド上で共有することで、ユーザー間の書類から自分に必要な記述や表現を抜き出して利用できるようになるかもしれない。現在では集積したデータからは単なる情報としての「知識」しか抽出できないが、それを「知恵」のレベルに昇華するようなアプローチが行われることだろう(実現するのは10.7ではなく10.9ぐらいか?) 

とまあ、いくらでも無責任な予想はできそうだが、実際のところ当たるかどうか定かではない。

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