2008年はiPodとMacの製品統合第2ステージに

2008年はApple関連では「割とすごいこと」が起こる年になるだろう。そうはいっても、毎年恒例のキーノートスピーチで毎年「今年はグレートな年だ」とおJobs様が言っているわけだが、主観的にも客観的にもすごい年になりそうだ。

2008年は「iPodとMacの統合」という動きがさらに活発化すると予想されるためだ。ただし、その動きはまだ完結しない。2008年末でもまだ道半ばといったところか。

第1段階:iPodへのOS Xの採用(〜2009年)
第2段階:iPodとMacの中間形態のハードウェアの登場(2008〜2009年)
第3段階:iPodへのIntel CPUの採用。Macとのバイナリ互換性を確保(2009年)
第4段階:iPodとMacの不可分なラインナップ統合。iPod=Mac。Mac=iPodの状態を実現する(2009年〜)

だいたいこんな感じだ。

第1段階を説明するため、ストーリーは2003年までさかのぼる。

もともと、iPodに使用されていたOSはサードパーティ(Pixio)のものだった。OS供給元のPixioはこの2003年にSun Microsystemsに買収されている。


主要製品のOSが他社製品のものであり、そのうえ他のコンピュータメーカーに買収されたという状況は、いまひとつよろしくないと彼らは考えたのだろう。iPodのOSをMac OS XのサブセットであるOS Xに変更したのは仕方なくだったのか、最初から狙ってのものだったのか……。

AppleはiPodのCPUを現行のARMベースのものから、段階的にIntelのx86系超低消費電力CPUに変更するつもりだろう。OS XとIntel x86 CPUの採用によってMacとバイナリ互換性を持たせ、気付けばiPodもiPhoneもみんなMacという状態にしようと画策しているのではないか。「OSのシェア争いに興味はない」、というおJobs様の言葉を信じてはならない。彼は、ルールの変更を行ってOSシェア争いを新たなステージに移行させるつもりだ。これこそが、「iPodとMacの統合」プランの最終目標だと私は仮定している。既存のPCの台数は問題にならず、携帯電話(iPhone=Mac)と携帯音楽プレイヤー(iPod=Mac)を加えた台数の総合計で市場占有率の定義自体を塗り替えるつもりだ。

これは、日本人ならどこかで聞いたことのある話だろう。組み込み機器や携帯電話に使われ、実は普及台数がPCなど比にならないほど多い国産OS「TRON」のストーリーを彷彿とさせるものだ。ただ、TRONがあくまで目立たぬ黒子に徹しており、一般にはその存在があまり認知されていないのとは異なり、OS XではWebブラウザ「Safari」もしくはそのフレームワーク「Webkit」によって、インターネットデバイスとして存在(シェア)を強く主張するという違いがある。

ただし、この戦略は途中で見直しされるかもしれないし、いくつかのプランが並行して走っていることもある。

2007年のLeopardのリリースは既存のハードウェアの使い勝手を向上させることだけが目的ではなかった。このOSのリリースをもってして、はじめて新たなジャンルのハードウェアを発売できる、と考えてみていただきたい。


2008年に登場すると噂されている薄型ポータブルマシンは、MacBook(仮称:MacBook nano)およびMacとiPodの中間的なタブレット(仮称:MacPod)と予想している。たとえデスクトップ機のラインナップを減らしてでも、ポータブルマシンのラインナップを充実させていくつもりだろう。Appleが(AMDではなく)Intelと組むことのメリットがここにある。

MacBook nanoはMacBookに超省電力(Silverslome)CPUを搭載して薄型・軽量化したモデル。電力消費を抑えられれば、バッテリを小型化でき……その結果として軽量化が可能になる。そして、1.8インチのHDDを搭載すれば、薄型化も可能だ。iPod シリーズで採用しているため、調達時の価格交渉も有利に行えるだろう。薄型軽量ノートでありながら「アグレッシブな価格」を実現するには、SSDではなく1.8インチHDDの方が適している。一部の噂でSSD搭載と言われていたが、SSD搭載はMacBook nanoではなくMacPodの方だと考えると納得できることが多い。

一方、MacPodについては、形状は不明だがiPod touchを大きくしたような姿だと誰もが予想している。筐体および画面サイズは不明だ。UMPCライクな内部構成を採用し、iPod touchライクな機能を持ちつつ、電子ブックビューワーとしての機能を備える。下手をすると、ゲームのためのコントローラー的な役割を果たすボタンもついているかもしれない(PlayStation PortableとiPod touchを足して2で割ったような外観だろうか。画面サイズも似ていそうだ)。

MacPodは去年出てくると考えていたのだが(OrigamiならぬChiyogamiプロジェクトとかいって)、iPhoneの立ち上げとLeopardのリリースだけでそこまで手が回らなかったのだろう。そこで、満を持して2008年に登場。

ただし、このMacPodのCPUが何になるかは現時点では分からない。2009年ならIntelの超省電力CPUなのだろうが、今年の初頭に出すハードウェアでは、まだ十分な省電力効果が期待できない。そうは言いつつも、Intel CPUの搭載を完全に否定するだけの材料もない。

そこで、MacPodの搭載CPU別に2つのパターンを考えてみることとする。ARM(=xScale)ベースのCPUを搭載するMacPod(ARM)と、Intel CPUを搭載するMacPod(Intel)の2パターンだ。

■MacPod(ARM)
OS Xが稼働するマシンで、iPod touch/iPhoneよりも一回り大きいぐらい。価格は500ドル近辺。SSDを32Gバイト搭載。カメラつきでビデオチャット可能。

■MacPod(Intel)
Mac OS Xが稼働するマシンで、iPod touch/iPhoneよりも2回り大きいぐらい。価格は900ドル近辺。SSD 32Gバイト搭載。カメラつきでビデオチャット可能。

……どうも、MacPod(ARM)のパターンのほうがありえそうだ。Intel CPUを搭載するとどうしても電力消費が大きくなり、大振りのバッテリを収めるために筐体も大きくなる必要がある。大きなバッテリのために重くなるわけで、毎日持ち歩いて使おうというマシンの性格上、いささかバランスがよろしくない。

ここで、2008年2月にリリース予定とされているiPhone向け(?)SDKのことも考えておかなければならない。

そもそも、なぜリリースが2月なのか? 本当はもっと早くリリースしたいのではないか。

また、これは本当に既存のiPhone/iPod touch向けのSDKなのだろうか? 「何か」が1月に発表されて、それを対象としているために2月でなければならなかったのではないか?

さらに、いずれ乗り換える予定のARM向けバイナリが流通することをAppleは望んでいるのだろうか? PPC/Intel/ARMの3CPU向けUniversal Binaryなどというアプリケーション形態も不可能ではないが、エンドユーザーの混乱は避けられないだろうし、SSDの容量を無駄遣いするのはマイナスだ(母艦とシンクロするときに対象CPU以外のバイナリを削除する仕様になっていれば大丈夫)。きっと、彼らはARMバイナリの積極的な流通は望んでいないはずだ。

ただし、CPU変更にともなう開発者のダメージを最低限に抑えるため、CPUアーキテクチャに依存しない開発を推奨するという方法もある。何らかのスクリプト言語を用いるのだ(Ruby Cocoaか?)。この方法を採用すれば、ARMベースのアプリケーションが流通しても、のちのちにIntel CPUに切り替えたときにリコンパイルだけで移行可能な状態になる。だいたい、Intelの超低消費電力CPUの開発が予定どおりに進むという保証はどこにもない。ARMのお世話になる期間が伸びる可能性だってある。

だいたい、ここらへんが2008年の流れになるだろうか。Apple TVがどうなるかはビデオコンテンツ次第だし、デスクトップマシンは単にCPU速度が上がるとか筐体デザインがちょっとだけ変わるぐらいの変化しかないだろう。MacProの前面にガラス素材が使われるとかいうのはありそうな話だ。

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