大変難しいOffice 2008への評価

Office:mac 2008は、評価の難しいソフトだ。

人によってたいへん評価が別れる、というべきだろうか。

一般ユーザーのうち、声の大きい人……たとえば、Amazon.comにレビューを書くような人にはきわめて評判がよろしくない。その一方で、過去のOffice:macのどのバージョンよりも売れているとマイクロソフトが発表している。

マイクロソフトの発表が正しくないと仮定するなら、Offce 2008は出来の悪いソフトで、その結果として売れていないという図式が成立するわけだが、あえてマイクロソフトが偽情報を流す必要性がみつからない。

そこで、マイクロソフトの発表が正しく、順調に売れているんだけれど声の大きなユーザーからは評判がよろしくない、という前提のもとに分析してみることとしよう。

まず、文句を言っていないユーザーがOffice 2008についてどのように考えているのか、といった話になるわけだが……そもそも意見を表明しないユーザー層なので推測するほかない。

まずは、Officeにさほど期待していない、あるいは機能をそれほど使い込んでいないというユーザーであることが考えられる。

Windows Officeとのデータ交換さえできればいい、というレベルの期待しかしていない。自分もマクロや関数を使い込むタチではないので、この部類に入ってしまう。VBAが動かないことで難儀する(WindowsマシンやWindows環境が必要になってしまう)ケースもないではないが、そもそもOfficeへの依存度が低いのであまり困らない。

昔からのMacユーザーであれば前バージョンのOffice 2004を手元に残している(Office 2008のインストール時に古いバージョンを「削除しない」設定でインストールを行う)ことだろう。ソフトウェアのバージョンアップで不具合に直面した経験は一度や二度では済む話ではなく、経験豊富なユーザーであれば「古いバージョンもとっておく」ことだろう。

一方で、ごく最近Intel MacになってからWindowsから移行してきたユーザーは、BootcampでWindows環境をMac上に移築し、そのうえにWindows版Officeをインストールしてあるかもしれない。もしくは、ParallelsやVMWareなどの仮想環境でもよいが、Windows環境そのものをMac上で使用しても実用的なレベルになってきたため、「いざとなればWindows版Office」という割り切りができることもOffice 2008への風当たりを弱めている原因になっているのではないか?

いろいろ不満な点として挙げられているのが、

・バグ(機能不全)

・起動の遅さ

・互換性(とくにVBA)

といったところだろうか。バグについては、順次取れていくことを期待したい。これだけのサイズのアプリケーションになると、OS側のバグが直らないとちゃんと動かないとか……そういう話は山のようにあるはずだ。つまり、Office側だけが頑張ってもOSに足を引っ張られてうまく動かない機能がある、という事態が容易に想像できる。

起動の遅さ……については、ユーザーの間に「Universal Binary化すると起動が速くなる」といった幻想があるため、起動時間が長くなると不満が増すらしい。

だいたい、Universal Binary化すると……ファイルサイズは倍ぐらいになるので、読み込みの時間は単純に倍かかる計算になる。そして、各バージョン間のファイルサイズの変化を調べてみると……


Excel v.X (11.6MB)→Excel v.2004(14.7MB)→Excel v.2008(55.1MBうち実行ファイルは40.2MB)


となっている。2004から2008でだいたい3倍以上の大きさになっているわけだ。

同じマシン上で、ファイルサイズが3倍以上もでかいものをロードしてきて、速くなることがあるだろうか? いや、ない。ありえない。

Office 2008は、Universal Binary化されて機能が増えた分だけ起動に時間がかかる、というのは当然の話にしか思えないのだがどんなもんなんだろうか。


ただ、考えてみるといろいろOffice 2008には不思議な話がある。

だいたい、マイクロソフトはなんでこんなに短い期間で開発環境をXcodeに移して、Universal Binary化が実現できたのだろうか?

前バージョンから4年……と思っている方もいるかもしれないが、Intelへの移行が発表されたのは2005年の6月7日のことなので、そこからは発売までは2年半しかない。事前にAppleから(Intel移行について)リークがなかったとすれば、ものすごく短い期間で開発できたことになる。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0506/07/news007.html


だいたい、2007年1月のMacWorld Expoではα版でデモをしていたぐらいなので、そこまで2005年からはわずか1年半だ。とんでもない短さである。

とくに、v.Xの頃であっても……Wordあたりは古いコードをひきずっていることで有名で、こんな短い時間で開発言語(たぶんC++→Objective-CないしはObjective-C++)を変えて、開発環境を変えて、APIを変えて……などというマネが本当にできたのかはなはだ疑問だ。

開発にかかった時間が短すぎるのである。にもかかわらず、Windows版Officeとの互換性が高まっており、開発側の視点から見ると不思議でしょうがない。

ここに、ちょっと乱暴な1つの仮説を立ててみることにした。


仮説;Windows版OfficeとMac版Officeは、実はコードの大部分が共有化されている


プラットフォーム依存部分は独自に作り込んであるものの、大部分はWindows版と同じコードを利用していると考えると納得がいく。しかも、Windowsの開発環境(Visual Studio)ごとMac OS Xに移植してしまって、「Visual Studio for Mac OS X」上でVBとかVC++とかC#とかで開発してるんじゃないかと考えると、ものすごく納得できる。

WordかPowerPointのバイナリに対してstringコマンドで定数のリストアップを行って面白いものを見つけた。Officeの開発時のソースのありかのフルパスが出て来たのだが、そこにはあえて途中に「xcode」と書かれたパス名が残されていたのだ。

ここから、Xcodeに加えて「Xcodeではない何か」の開発環境を併用していることが伺い知れる。だって、全部Xcode上で作っているなら、わざわざXcodeなんてフォルダ名を付ける必要なんてないんだから。

その「Xcodeではない何か」がCode Warriorなのか、それ以外の何かなのかは判断材料となるべき情報がまったくない。

だが……開発期間の短さや互換性の高さなどを考えると、同一ソース/同一言語が使える環境が用意されていると考えたほうが自然だろう。


仮にこの話が正しかったとしても、別にそれは責められるような話ではない。期限に間に合わせるために行われた当然の努力、というほかない。ただ、ちょっと起動に時間がかかりそうだとか、ファイルサイズが大きくなりそうだ……といった「特殊事情」が発生する要因にはなることだろう。

だが、そこまで努力して文句を言われているのだとしたら、同情したくなるほどだ。こんなに努力しているデベロッパーは地球上にほかに存在しないだろう。

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