デトロイトメタルシティの実写版を見てきた

マンガの単行本を6巻まで読破し、アニメのDVDを借り、iTunes Storeで「SATSUGAI」まで購入。カラオケDAMでSATSUGAIを熱唱して全国で40位というスコアを叩き出すという、絵に描いたような「DMC信者」なわれわれ夫婦であるが、劇場公開後ながらく実写映画の方は観に行っていなかった。

マンガとアニメがきわめて近いテイストなので、そこから離れた「デトロイトメタルシティ」が成立するのかどうか、ちょっと疑問……というのが共通認識であった。

しかし、奥方様が「なんか面白いらしいから見に行こうよ!』


この翻意の影には、主演の松山ケンイチに対する絶大なる評価の高まりがある。DMCのちょっと前にわれわれ夫婦が遅まきながらハマった「デスノート」。その実写版の「L」を演じたのが松山ケンイチ。若いのに、ものすごい演技力の俳優だ、と確信した。

その松山ケンイチが演じているんだから、おもしろくないわけがないだろう、という話なのだ。


自分としては、「デトロイトメタルシティの謎」について一つの答えが見いだせるのではないかという考えもあった。「デトロイトメタルシティの謎」というのは、サザエさん家の謎みたいな、つまり「箱庭的お約束的世界の限界」がどこにあるのかという話である。

デトロイトメタルシティでは、主人公の根岸君が悪魔的デスメタルバンド「デトロイトメタルシティ」のリードボーカル「ヨハネクラウザー2世」を演じるわけであるが……このストーリーがどこまで続いていくのか、ということに関心を持っている。

このストーリーは、「ヨハネクラウザー2世の正体がバレない」ということが前提になっており、その一方でヒロイン相川由利との間柄が進展するのかしないのか……という「軸」が存在する。


で、その流れのパターンであるが、

(1)正体がバレて間柄が進展する

一番無難なパターンである。見ていて誰もが納得できる話だ。

(2)正体がバレて間柄が進展しない

それはないだろう。物語の「お約束」としてそれはあり得ない。

(3)正体がバレないで間柄が進展する

それは無理だろう。日常生活でデトロイトメタルシティの小道具などを隠し通せるわけがない。

(4)正体がバレないで間柄が進展しない

それでは話が成立しない。だいたい、それではそもそもヒロインを話に登場させる意味がない。


………そう。物語的お約束の世界においては、(1)以外はあり得ない。

ただ、それを行ってしまったらストーリーが成立しなくなってしまうのではないか、という恐れがある。ヒロインと結婚したんだけど、主人公の根岸君はご近所にデスメタルバンドのことを隠している……とか、結婚式に「職場のみなさん」としてデスレコーズの面々が登場するとかいう話は、ものすごく浪花節的すぎて恥ずかしい気がする。

よって、マンガのデトロイトメタルシティのストーリーは「永遠に終わらない青春ストーリー」のように時間的経過を感じさせないまま進展していくものなのではないか、という仮説を立てていた(このへん、四季の移り変わりがあっても登場人物がトシを取らないサザエさん的箱庭的世界観と同じ)。


……で、話を実写映画版の「デトロイトメタルシティ」に戻すわけであるが、期待をいい意味で裏切られて、ひじょーーに良かった。

ストーリーもうまくまとめられていたし、松山ケンイチの超絶的な演技力も楽しめた。だいたい、途中で出てきた遊園地が……原作では富士急ハイランドかどこかであったが、どう見ても「としまえん」。実際に見に行ったいつもの映画館(ユナイテッドシネマとしまえん)のすぐ横で撮影していたのかと驚かされた。

マンガ版との最大の違いは、「正体が(人によっては)バレている」ということ。母親にもバレていたし、ヒロインにもバレていた。やっぱり、実写的な現実的な世界観の中にDMC的な設定を落とし込んでみると、そうなるだろーきっと。

ただし……なぜ、ラストシーンでヨハネクラウザー2世は(わざわざ)走らなければならなかったのか。タクシーに乗ればいいじゃないか。日の高いうちから東京駅からどこかまで夜になるまで走るというのは何事? という疑問を感じてしまったが、それ以外は非常に楽しめた。マンガやアニメを見ている人にでもおすすめできる作品。やっぱり、松山ケンイチはすごい役者だ……。


なんにしても、デトロイトメタルシティという作品の不気味なパワーの根源は、作者の青春に対する怨念のようなもの……モロに「恨み」であると言ってよいだろう。

 「僕がやりたかったのは、こんなバンドじゃない!」

という主人公・根岸の叫びは、それはそのまま……

 「僕が書きたかったのは、こんなマンガじゃない!」

という、作者の心の叫びでもあるのかもしれない。DMCの単行本が売れれば売れるほど、作者の「復讐」は成就されていくのかもしれない(それはそれで「ウラミハラサデオクベキカ」という恨みがたまっていくのかもしれないが)。

結局、その「恨み」パワーがどこまで続くか? というのがストーリーがどこまで続くか、という問いへの答えになるのだろう。

Copyright By Piyomaru Software. All Rights Reserved