デザイナーの「仕事」の範囲

池袋の東武デパートに買い物に行ったときのことだった。ふと、デザイン雑貨のコーナーに電卓が置かれているのを見かけた。


電卓を見かけるとかならず行う「儀式」がある。そいつがきちんと動いているかどうかを確認するために、「1.2345679×3.6」という計算を行うのだ。


この、「3.6」の部分については、足して9になる数字の組み合わせならなんでもよく、「1.8」でも「2.7」でもなんでもいい。答えは、「9.9999999」のように、同じ数字がずらっと並ぶという仕組みである。


この計算自体は電卓の動作確認(故障していないかどうか)のために行うものだそうで、父親から小学生の頃に習い、しつこくいままでずーーーーーっと覚えていた。


ところがごくまれに、この計算結果が合わない電卓というものがある。東武デパートに置かれていた、一見デザインに凝った感じのある電卓でこれを試してみたところ………………結果はまるで違うものになった!!!


小数点以下が表示されなかったのだ。表示有効桁の設定があるわけでもなく、勝手にそのように処理されてしまったようだ。ひっくり返してしつこく有効桁数設定のスイッチを探しまわったものの、そのようなものはなかった。


よく見ると、名前の売れたニホンのプロダクトデザイナーによるデザインなのだという。そのデザイナー氏は、自分のデザインした電卓が、そんなおかしな動作を行う品だということに気付いているものだろうか?


デザインという行為が、「製品の見た目」を規定するだけという行為にとどまらず、動作内容やその製品が果たす社会的な使命といったものまで広い範囲に渡って足を突っ込まないと意味がない、といった感じだろうか。


ニホンの携帯電話や家電製品みたいに、ぱっと見はかっこよさそうではあるものの、使ってみると使いづらいわ、見た目とぜんぜん違う使い勝手に怒りを覚えることが多いのは、プロダクトデザイナーの仕事の範囲が、単に「製品の見た目」だけに限定されているからなんでないかと考えてみたり。


中身までちゃんと責任を持たないと、デザインと言えないのではないか。この電卓も、単純な計算なら間違わないものの、実用性という意味で疑問符がつく。コストをケチったためにおかしな電卓のコアを採用することになってしまったのだろうか?


本人に知らせてあげたほうがいいのかもしれないが…………購入はしていないわけだし、そこまでの義理はない。あくまで、自分への戒めとして「そーゆー風にならないよーにしよー」と思うものである。


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