バカムービー研究会

5・6年ぐらい昔のことだろうか、もうちょっと前かもしれないが………プログラムを作っていろいろ人前でデモをするにはどーーしたらよいのか、という命題を抱えていた時期があった。


なんやかんやのイベントに乗り込んでデモをするという話になったときに、ただコ難しいプログラムの話をしているだけでは、とうてい見てもらえないだろう、という話になった。本当は技術的な話とかビジョンを話したいわけだが、とりあえず笑わせる何かがないと困るよね、ということに。それを見れば、オジちゃんやオバちゃんまであまねく笑えるような……


その難題は、割と簡単に解けた。「バカムービーを作ろう」!


海外の開発者が喜んで作っているような、おバカなムービーを作成し、展示会に観に来た人をとりあえず笑わせておいて、そのすきに本来の出し物であるプログラムやらゲームやらをデモしようというのだ。


だが、当時の自分は……ムービーなんか作ったこともなければ、ビデオ撮影もしたことがなかった。とりあえず、PowerMac G4/350を買ってあったので、DVビデオカメラを中古で購入し、Adobe Premiereの古いバージョンのライセンスを持っていたため、アップグレード版のパッケージを買ってきて最小限の構成で機材を揃えた。当時PowerMac G4は自分が持っているうちで最もパワフルなマシンだったが、買ってから売り飛ばすまでの間、ずっとムービーのレンダリングばかりやらせていた気がする。


……最初に撮った試作品は惨憺たるできばえだった。ビデオ撮影ぐらい簡単にできる……と、思っていたが、だいたい……見ていて飽きないムービーというものを作るのがめちゃくちゃ難しいことを知る。自分で作っておきながら、2度と見たくないという出来の作品ばかりができてしまった。


320×240ドットぐらいの大きさのQuickTimeムービー作品が作りたかったので、それに合わせた撮影技法であるとかカット割りを行う必要があった。当時はハリウッド映画を見まくって勉強。テレビを見ては、カメラワークを勉強……。しかし、実際にそれを行動に移すのは難しく、すぐに行き詰まってしまう。


そこで、下手なことは下手なこととして認め、「下手クソでも撮れる撮影方法」というものを編み出す。カメラワークについては、凝ったことはできないからズームぐらいしかやらない。どうせフィニッシュの映像サイズが小さいから、思いっきり寄せて撮ったコンテで映像を作る。セリフなんか、ちゃんとしゃべれるわけがないので全部カット。撮影は1日ですべての場面を済ませて、欲張らない。映像に合わせて音楽を編集するのは難しすぎるので、音楽に合わせて映像を編集する、とか。


下手でも作れるムービーの条件に、「全体の長さが1分以内」というのもあった。最初から長いものを作ろうとすると失敗するし、長いムービーも短いムービーの組み合わせで作られるものなので……短編ムービーをしっかり作る方向で努力することが大事だと教えてもらった。


かくして、ムービー作成はわれわれのチームのデモの代名詞のようになり……いろいろとおバカなムービーを作っては流していた。



……などと、古いHDDを引っ張り出してきて昔の作品を見直してみたところ、なかなか楽しめた。最近はムービーもすっかり作っていないが、いま作ると何ができるだろう? 当時は独身時代で、わけの分らない謎のエネルギーに満ちていた感じがするが、いまはいまで、また変わったものが作れそうな気がする。ただ、ムービー編集で徹夜とかそういう無茶はできないので、1人だけで作るのは無理だが……。


ただ、デモについては……数え切れないほど場数を踏んだおかげか、人前でしゃべるのに苦痛は感じなくなった。ムービーを作ってやたらとデモしていなければ、ここまで場数を踏むこと自体が不可能だったことだろう。

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