「罪と、罪なき罪」に見る話題のマイクロパケット化

奥方様がごひいきにしている劇団「リリパットアーミー2」(以下、リリパと略)の最新作、「罪と、罪なき罪」の東京公演があり、数ヶ月前にこの情報をキャッチしたわれわれ夫婦は、事前予約を行って日曜日に下北沢で観劇。会場はパイプ椅子がアリの這い出るすき間もないぐらいびっしりと並べられた小劇場「ザ・スズナリ」。ここを訪れたのはこれで3度目ぐらいだ。


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そういえば、1月にもリリパの演出家にして座長であるわかぎゑふ氏・作の演劇「夢のひと」を池袋のサンシャインシティに観に行った。さらに、大阪で行われたリリパの公演に夫婦して出かけたこともある。リリパは大阪の劇団なので、東京で公演する機会はそれほど多くない。機会を逃すと1年ぐらいは平気で間が空いてしまう……。


もともと、演劇は好きなほうだったが、こういうのはなかなか自分から観に行くというほど情報がゴロゴロしているわけでもない。数年前、奥方様に連れて行かれて「へー、面白いねー」などとハマった次第。


今回の「罪と、罪なき罪」は、自分が見たリリパの公演の中で過去最高の内容ではなかったかと思っている。ただ、やっぱりお芝居はその場で観るのが一番で、会場で買ってきた過去の上演作品のDVDはそれなりに楽しめたものの、実際に見たほうがはるかに楽しめたことは言うまでもない。


少々下世話な話に思いをめぐらせると……ザ・スズナリには横20人程度、奥行き15列程度の席が並べられており、1人4,000円(前売り)と仮定して……1回の公演で120万円程度の売り上げ。これを1週間毎日繰り返したとしても1,000万円には届かない。遠征費用(旅費および宿泊費)や会場費、衣装制作や舞台装置などの費用を考えると、収支はよくてギリギリ黒字(?)程度と思われた(劇団同士で合宿所を融通し合うシステムでもないと、宿泊費だけで大変そうだ)。


比較的小さな劇場で行われる劇団のお芝居は、さまざまなプログラムのデモを人前で行うことに酷似している。自分的にはジャストイコールであるといってもいいぐらいだ。芝居を見ると、さまざまな点で参考になる。笑わされっぱなしで、細かいポイントをいちいちメモしているわけではないが……それでも、サービス精神の塊のようなその内容には毎度のことながら感服させられている。



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ちょうど同じ日の朝に、iTunes Storeでテクノロジーライターである大谷さんの講演がオーディオブックとして売られているのを見つけた。オーディオブックについては、ほとんどその存在を認識していなかったのだが、「朗読書籍」といったところか。世間的には、無償で公開されているものをPodcasting、有償で販売されているものをオーディオブックと呼んでいるようだ。いろいろ調べてみると、1本で10時間以上お値段5,000円以上とかいったオーディオブックもザラにある(ただし海外の英語コンテンツ)。


Podcastingで曲を売っても、アフィリエイトだとその数パーセントの手数料しか入ってこないため、Podcastingを前提としたビジネスモデルというのはなかなか構築しづらいな〜、などと考えていたところで再発見したオーディオブックの存在。実は、先日のDEMOsaでMOSA専務理事の松木さんに教えていただいた。自分が見落としていた情報をインプットしていただけたわけで、DEMOsa参加の最大の成果はコレではないかと思えるほどだ。


大谷さんの講演のオーディオブックを購入し、奥方様と一緒に聴いていたのだが、「やっぱり、この人うまいねぇ」などとベタほめの奥方様。自分たちも人前で説明しているので、滑舌の良さとかスピードとか言葉の選び方など、実に熟練のスキルがそこかしこに感じられたようであった。


当然すぎるぐらい当然なのだが、大谷さんの講演は、構成そのものも実によくできている。大谷さんは話題をマイクロトーク(日本語でいえば「小咄」)化して、細切れの小さい話(マイクロトーク)をいくつも積み上げる。出だしのあたりでは、思いつきで題材を選んで好き勝手に話しているように聞える。実に楽しそうだ。……ところが、後半になると最初の話が「伏線」であったことに気付かされて愕然とする。それらのマイクロトークを積み重ねて全体を構成していくのである。


ひとつひとつのマイクロトークには単体でオチもあって、聴くものを飽きさせない仕組みになっているのだが、もし途中で聴いていなかったとしても、マイクロトーク単体で小テーマが成立するように計算されているので、途中が抜けても大丈夫になっている。あらためて分析してみると、そこかしこに熟練のノウハウが感じられた。素晴らしい。


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話を戻して、リリパットアーミー2のお芝居……これも、場面場面でお芝居が細切れになっている「マイクロアクト」の積み重ねで構成されており、細部の積み重ねによって全体が構成されている。たまたま駅で購入したビジネス系のノウハウ本も、だいたいそんな構成になっていることに気付いて(いまさらながらのように)驚き、実にいろいろな発見があった1日であった。


自分は、頭の中に入っていることを、短い時間で大量に書き出して、事後にフィードバックを加えつつ修正するといったスタイルで文章を書いていたりするため、この「マイクロパケット」化についてはあまり意識したことはなかった。文章をマイクロトーク化することで1つ1つの文章の密度や情報量が減ることを嫌っていることもある。


だが、すべての人が自分と同じような頭の構造をしているわけではない。1つの事象に興味が持続する時間が長い、というのが自分の特性だと思っているが、世の中でそういう人種は少ないと思うべきなのだろう。たいてい、5分や10分も興味は持続し得ないと思われる。


情報のマイクロトーク化は、そうした「情報の受け側」に配慮したテクニックのひとつとしてとらえるべきであり、少し考えてみようかと考えた次第である。

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