エルゴソフトのパッケージ事業撤退に寄せて

Macソフトウェアの老舗、エルゴソフトがパッケージソフト事業から撤退するとのニュースが飛び込んできた。誠に残念なお話である。

ほかにも「老舗」といわれるメーカーは多々あれど、エルゴソフトは特に思い入れを強く感じるメーカーだったために、重ね重ね残念である。パッケージからは撤退するが、他の開発事業は行っていくものと思いたい。

ただ、かくいう自分はegwordやEG-Bridgeのユーザーではない。自分自身ワープロというジャンルのソフトに必要性は感じていなかった。アイデアをまとめるならアウトラインプロセッサやマインドマップを使うし、デザインを凝らしたものを作るならPagesやInDesignを使う(デザイナーではないので大したものは作れないが)。

エルゴソフト撤退の理由は、親会社であるゲームメーカー「コーエー」の経営不振など諸説紛々としているようだが、ワープロソフト市場における製品ポジションの問題、ワープロそのものの需要の低迷、海外ソフトの直接日本市場攻略などといった問題が 複雑に絡み合ったものと分析している。

ニホンのユーザーがなかなかパッケージソフトを買わなくなったと言われる昨今であるが、その原因はソフト側にもあるのではないかと考え、分析してみることとした。


(1)ワープロソフト市場における製品ポジショニングの問
Mac用ワープロソフト製品の相関図を、価格と機能でプロットしてみた。日本語ワープロソフトはだいたいこの3つであり、他にマイナーな海外のワープロソフトがぽつりぽつりと存在する程度である。

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egwordに対する危機を感じたのは、Pages 3をさわった時のことだった。縦書きこそできないものの、一昔前のPageMakerを思わせるような自由なレイアウト作成機能や、Keynote譲りの画像レイアウト機能、表作成機能。さらには、最初からついている各種テンプレートがなかなか使い手があったことなどから……ひそかに「egwordキラー」と呼んでいた。

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egword以外のワープロが、単体ではなく他のソフトウェアとのバンドル製品であることも見てとれる。iWorkはKeynoteやNumbers、Officeは言わずとしれたExcel、PowerPoint、Entourage……そして「本物のWord」。互換製品ではなく本物のWordにその他ビジネススタンダードな製品が一緒になっているOffice、Apple純正の強力なプレゼンソフトと一緒になっているiWork。いくら日本語IMとしてのEG-Bridgeが優れていようと、この2大スイーツに対抗していくのは大変である。

(2)ワープロソフトそのものの需要低迷
これは、遥かかなた昔から指摘されていたことだが、ワープロというのはポジションが中途半端なソフトだ。下にテキストエディタが、上にはInDesignなどのページレイアウトソフトが存在している。このため、ワープロというジャンルそのものの中途半端さは強く感じていた。単なる「ワープロ」以上の何か別のコンセプトを打ち出すべきだったのかもしれない。正攻法で戦い抜くのが困難な市場になりつつあった。
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ワープロならではの機能というのは、快適に日本語の文章を作るための各種支援機能や校正機能といったところだが、さらに廉価なワープロであるPagesがページレイアウト機能を持ったことで、対費用効果の面からもegwordの旗色は悪くなったことだろう。

(3)海外ソフトの直接日本市場攻略
ワープロ市場は、AppleとMicrosoftというMac市場でいえば最大級のソフト会社がひしめきあう激戦区であるが、ワープロ市場以外でも海外ソフトメーカーの日本市場直接攻略という局面が増えてきている。

具体的な例を出せば枚挙にいとまがないが、Omni Outlinerなど海外産のソフトでありながら、日本語ローカライズされた状態で販売されているものも少なくない。かつて、漢字Talkの時代(20年ぐらい昔)、ニホンのMacソフトメーカーは、そろって海外産のソフトのローカライズと国内販売がメインであって、独自のソフトというのは珍しかった。それだけ、ローカライズが大変な時代だったのだ。

Mac OS Xになってからというもの、(ざっくりした意味での)日本語対応がやりやすくなったことは確かだ。Mac OS Xの時代になって、OSの基盤が多言語を前提とした構造になり、日本語環境があまり特殊な存在ではなくなりつつあるため、海外ソフトメーカーが直接入ってくるパターンも珍しくなくなった。今後も、この傾向は強まることだろう。


これらに加えて、Mac OS X標準装備のIM「ことえり」の機能がOSのバージョンアップのたびに向上してきたこともegword+EG-BRIDGEのポジションを危うくしたことだろう。かくいう私もMac OS Xになってからは、ことえりだけを使用している。

実際に使い込んでみれば、egword UniversalやEG-BRIDGEの良さは体感できるものと考えるが、実際に使ってみないと分からないというのは訴求力に欠ける。また、海外市場を攻略するという発想がなかったところにも問題があるだろう。さらに、ワープロという狭い枠組みの中に閉じこもってしまったことにも問題がある。ワープロでありつつも新たなジャンルを定義していけるような方向に進むべきであり、Word互換といったギミックが本当に良かったのかどうかはひたすら謎だ。

ただ……あとからであれば、好き勝手言えるものだが、それを実際に行うのは大変な困難が伴う。最前線で実戦を継続してきた先輩方の努力にひたすら敬意を表するものである。

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