奥方様がB'zのボーカルの稲葉さんの実家が営んでいる化粧品店「イナバ化粧品店」(岡山県県津山市)にB'zファンのお友達と遊びに行っているので、この連休中は「放し飼い」状態。
・イナバ化粧品店
そこで、昨日は埼玉にある弟の家に遊びに行っていた。
■そんなこと、昨今考えたことがなかった
数ヶ月前にiMac DV+をセットアップして弟の家に送り出し、インターネットの接続は自前でやったらしいが、その他の使い方で分からない所があるとかで、説明しにいったのだ。
メールの設定ができていなかったので、POPサーバーとSMTPサーバーを設定。弟の家はいまどき珍しいアナログ回線のダイヤルアップなので、プロバイダから頻繁に「FTTHにしませんか?」とか「ADSLのほうがいいですよ」と売り込みの電話がくるのだという。今のご時世まことにごもっともな話なのだが、なかなかそのあたりは弟に理解してもらえない(汗)
いや、説明してもいいのだが、もし仮にFTTHなりADSLのラインに変えたとして、「マシンパワーがないとムービーを見るのが……」とか、「無線LANがないと家の好きな場所でアクセスするのは……」と、ブロードバンド環境にしたおかげで最新環境にキャッチアップするためいろいろ追加で買わされる羽目になるということもまた一面の真実であり、コンピュータを生業にしていない弟にはそれもアリなんではないかと思った次第である。ただ、最近FTTH回線を引いた両親に言わせれば「たしかに、アナログ回線は時間の無駄だった」とか。
実際に弟に話を聞いてみると、思ったよりもよく使っているようだ。目下、iMac DV+はメインマシンになっているのだという。かな入力への切り替え方法を教えたり、Dockの位置の変更方法を教えたりした。
聞けば、CD-Rを焼けない点については不満を持っている(iMac DV+なので当然といえば当然)。また、弟はEPSONのプリンタを持っていて、その機種ではMac OS Xでフチなし印刷ができない点に不満を持っているようだった(現行の製品では対応しているようだ)。
だが、いまどきiMac DV+(PowerPC G3/450MHz)に追加投資するのもナニであるし、そのあたりは難しいところだ(汗) 最新のIntel MacならWindowsも動くし、めちゃめちゃ速いのだが……弟としてはそこまで投資するつもりはないだろう。
とはいうものの、使い勝手やデザインの良さなどは気に入っているようで、「どうしてMacのシェアが増えないのか?」 と私に聞いてきたのだった。
そんなこと、考えたことがなかった(本当)。ジャンルにもよるが、USではMacの売り上げも大変好調で、ノートなら15%近いシェアを獲得といった景気のいい話ばかりだが……こと、日本市場について見ると5%程度で変化がない。
とはいうものの、職場はMacだらけだし、職場のデスクにもPowerMac G5と私物のMacBook。家では奥方様がMacBook ProにiBook。居間にiMac Core Duo。実家に帰れば、eMac、PowerBook、iBook……と、自分の目の届く範囲はすべてApple一色。一部をのぞいて知り合いのほとんどがMacユーザーなので、ここ最近まったく気にしたことがなかったのだ。
■健全な経営は、不健全なシェア優先主義に勝る
そも、「シェア」とは何を意味する言葉か?
日本語にすれば、「市場占有率」ということになるだろう。市場で売れている製品のうち、どの程度を占めているかという意味だ。おそらく、販売台数ベースでカウントされるものになるだろう。
Appleは90年代に一度Chapter 9の適用寸前というところまでコケかけて、Gill Amelioの改革やSteve JobsのCEO復帰によってそこから奇跡とも言える回復を果たしたわけで、「市場占有率よりも健全な経営」「雑多なニーズに応える多数の製品群よりも少数精鋭のラインナップ」がそのキーワードであったことは記憶に新しい。
「健全な経営」というのは大事なことで……利益があがらないPC事業から撤退したIBMしかり、主要メーカーであってもPCの販売自体から利益を上げているところは少ない。きちんと利益を確保して新製品を生み出す力を持っていなくては、市場そのものを維持することができない。だいたい、OSからハードウェアまで自社で提供できている会社がほかにあるだろうか?
つまるところ、AppleがAppleであるかぎり屋台骨を揺るがすほど無理をして市場占有率を取りに行くことはない。また、「奥の手」としてよそのPCメーカーにMac OS Xをライセンスすることも個人的には十分にあると見ていたのだが、現状ではどうもそれもないようだ。
■点から面に展開するためには「協力者」が必要
そうした現状を認識しつつも、「あえてAppleがシェアを取りにいく」という決断を行った場合に何が欠けているものだろうか。
市場とひとことにいっても、企業向けの市場と家庭向けの市場の2つに分けられる。
企業向け市場製品というのは、現在流通しているソフトウェアがそのまま使えること、割安に調達できること、大規模ユーザーを一括で管理できることなどが重視される。「冒険&トキメキ」よりも「安全&安心」が、革新性よりも不変性が求められる。そして、コストがたいへん大事だ。
個人の生産性や自由な発想を伸ばすという方向性で開発されているApple製品が、こうした市場に向いているとは思いがたい。一般の企業では、そうした「突出した能力」というものは要求されておらず、むしろ均一な労働力というものが好まれる。ソフトウェアを勝手にインストールすることなど論外であり、Word、Excel、PowerPointの3種の神器だけですべてのドキュメントを作成することが要求される。
ソフトウェアのインストール禁止というのは、Windows自体の欠陥ともいえるレジストリ構造の脆弱さによるものと、何か問題が起こったときに情報システム部門がサポートし切れないとか、ウィルスつきの毒まんじゅうを喰ったときのダメージが甚大なものになってしまうからだろう。
こういう市場にMacを普及させようとしたら、部品構成やOS自体にも手を加えることが要求されるだろう。CD/DVD-ROMドライブの搭載禁止とか、iPodをつないだときに認識させないようにするとか、USBポートにUSBメモリをさせないように(認識しないように)するとか。
でもって、外部のストレージにファイルをコピーさせないようにする機能などなど…………Apple TVをNetBootさせたような構成にするといいのだろうか(RAMが十分に載っていて、Gigabit Ethernetがあればめちゃめちゃシンクライアント向きだ)。
そうした雑多な要求にハードウェアメーカーたった1社ですべて応えることは困難であると言わざるを得ない。ハードウェア販売やSIパートナー会社が不在(大塚商会にまともなMacのエンジニアがいるなんて話はついぞ聞いたことがない)というのは大きなマイナスだろう。
かつては、キヤノン販売がそのような地位を占めていたが、iMac登場時の販売チャネル再編で袂を分かった。日本でAppleがビジネス市場におけるシェアを向上させるためには、キヤノン販売のような会社をパートナーに持つことが必要だが、そのような協力体制を維持していくには、現在のUS本社による世界一律マーケティングは合っていない。
つまり、AppleがAppleであるかぎりは、そのような「仲間」を日本国内で得ることがきわめて困難ではないかと考えるものだ。顧客に予告なしで新製品を発表し、次の日から現行製品の在庫が皆無などという話では、とても怖くて大口顧客はつきにくい。
全世界的にキヤノン販売が一律にサービスを提供する、ということになれば話は別だろうが、実際のところそれは大変難しいことだろう。
■日本市場のニーズにマッチした製品の不在。販売環境のミスマッチ
もうひとつの市場、家庭向け市場に目を転じてみよう。
日本国内のニーズを満たすような製品が現行のラインナップに少ないことは大きなマイナスになるだろう。iMac 20インチや24インチを平均的な日本の住宅に置けるのか?(噂されているように、17インチiMacが廃止されるなら日本市場的にはマイナスだ) Mac Proはハイエンドすぎ、筐体も大きすぎて家庭には置けない。Mac miniは性能面では大変よいのだが、市場の要求レベルから考えれば明らかに過剰品質である。軽量なサブノートがラインナップにないのもたいへん大きなマイナスだ。
来年登場するとか今年の後半に登場すると噂されている超軽量のノートMacがひとつの試金石になることだろう。超軽量マシンまで投入して、それで売れなければ根本的に何かが間違っている(WindowsとMac OS Xのデュアルインストールモデルの投入も検討されるべきだろう)。
一般の販売店にとって、Appleの製品はパッケージデザインがそっけなさすぎることが問題だ。モノを知らない店員が客から質問された時に「箱を見て答える」といったことができない。店で売りやすいパッケージになっていない。だいたい本当に売る気があるのかという素っ気なさである。世界一律マーケティングの弊害だ。
まだ日本にApple Retail Storeができる以前から「日本にこそApple Storeが必要だ」と私は主張してきた。ごく一部の優秀な店舗をのぞけば、日本のコンピュータショップや量販店でMacを買うのはたいへんな話である。店員のMacに対する知識は皆無に等しいことをAppleは認識しなくてはならない(多分知っているとは思う)。
よって、Apple Storeを国内に増やせば「まともな販売の場」が確保され、販売台数は増えるだろう。だが、Apple Retail Storeの販売台数はUS本国の売り上げとしてカウントされる。Apple Storeの売り上げが増えてもシェア向上にはまったく寄与せず、むしろ日本のアップルの首を絞めるという結果になりかねない。
結果として、既存の販売店の中にApple Storeと同じスタイルの販売スペースを確保するという、昨今の「ストアインストア」の方向性は間違っていない。ただし、店内で変に浮きすぎていてなかなか入ろうという気がしない。だいたい、店の中のどの周辺機器がMacにつながるのかという情報さえストアインストアの販売員は持っていないことだろう。
そのへん、もんんんのすごく大事なのだが、ストアインストアは「Apple Storeらしくカッコをつけること」が至上命題になっているようで、実際のニーズの組み上げには失敗しているように見える。とくに、秋葉原のヨドバシカメラでそう思った次第だ(ストアインストアの場所だけ人口密度が低かった)。
■「iPod=iPhone=Mac」の図式が落としどころか?
話を元に戻そう。
弟には、「iPhoneに見られるように、iPodラインナップがだんだんMacそのものになっていく。こうして考えれば、Macの市場占有率は上がっていくのではないか?」と、その場の思いつきで説明したのだが、案外……そんなところが落としどころなのかもしれない。
消費者に実際にさわってもらえないと製品の良さが伝わらない。だから、消費者にリーチしている製品にだんだんMac OS Xのフレーバーを注入し(iPod Photo、iPod Videoがこの段階)、Mac OS Xそのものを導入し(iPhoneがこの段階)、軽量型のノートMacにiPod的な性格(たぶん、iPod用のリモコン端子がついてiPodライクに扱える。デザインのテイストもiPhoneらしいものになるだろう)を加味してiPodとMacのラインナップを不可分なものとし、iPodの上位機種はMacだという状況をこの3年ぐらいで完成させることになるだろう。
5年ぐらいで、携帯電話市場における存在感を確保し、iPod、携帯電話、Macを不可分なラインナップにするというのが大きな流れになるだろうか。