セマンティックWebに足りないもの

「セマンティック」Webという言葉については、長らくその存在を知らなかった。存在に気づいたのは1年ぐらい前だ(わぁ、これは恥ずかしいぞ!)。
だが、その方向性と内容についてはかなり昔(5年ぐらい昔)から自分でも検討を重ねてきたものだ。別にだからといってことさら威張るものではない。誰でも考える種類のものでもある。

……で、ティム・バーナード・リーが言うには、情報構造のみのWebを作って、運用しましょうということなのだそうで……それに対してGoogleの幹部が「(否定するものではないが)現実的ではない」と噛み付いたことがCNET Japanに掲載されていたりした(CNETなので、煽りたてるために重要な発言を省略した可能性は高い)。

Google幹部が言うには、ひとつに、情報構造のみの世界を作ったとしても、嘘やガセネタを混ぜたり、SEOよろしく自分の都合のいいようなデータを載せる人間はごまんというという話。確かに、彼らの仕事の大半はコレへの対策だろう。

もうひとつが、「ユーザーはそれほど賢くない」という話。めちゃめちゃ重要な点だ。世界の人がすべてティムのように賢く、思慮深く、ミスを犯さず、思いやりがあったら、セマンティックWebだろうが世界平和だろうが、速攻で現実のものになることだろう。

だが、残念ながら世の中にそれほど賢い人がいるものではない。賢い人用の道具を賢くない人たちに使わせると、トンでもなく役に立たないのだ。「セマンティック」の考え方を説明しても理解できない連中がデータを作り、ティムの名前を聞いたこともない連中がホスティングを行うのである。

ティムがこれらに反論して、情報に嘘やガセが混入されないよう、その情報の発信者の評価などを反映させればいい、と言ったようだ。

これも想定内の話であって、(この程度の反論しかできない彼に)やや意外な感じがした。

だいたい、その評価を「誰」が、「どのように」やるのか……評価自体を「賢くない人たち」がやったら意味はないし、その評価自体が正しいことをどーやって証明するのやら。だいたい、バカが面白いと感じるものと、賢い人が面白いと感じるものはそもそも違うのである。賢い人は「面白くない」と思っても、バカが「面白い」と思うものは、世間にはたくさんある。

そんな評価システムを実用化したら、扇情的でレベルが低くて、やたらとケンカをふっかけるような態度を取る人間の情報や言動を「面白い」として支持する人間がたくさん出てきて、そのサイトの情報は「たまにウソも入っているが、役立つからいいんじゃないか?」的な評価をされるに違いない。

自分はセマンティックWebの流れを批判するものではないが、そこに重大な欠落を感じるものである。なんというか、現実のWebワールドに背を向けて、セマンティック村に逃げ込んでいるような姿勢がよろしくないのではないか、ということだ。
現実のWebワールドで戦う武器を作る、という発想はどこに行ってしまったのやら。もうちょっと、そっち方面で努力してもいいんじゃないかと思うものである。

Copyright By Piyomaru Software. All Rights Reserved