池袋の東武デパートで夕食を終え、奥方様とエレベーターに乗った時に、彼女はしゃっくりをしていた。つまり、横隔膜の痙攣状態である。息を飲み込んだり、手のひらに「の」の字を書くなど、さまざまな対処方法が伝えられてはいるが、最も効果的なのは「驚かせる」ことである。
かなり大きめの音を出してしゃっくりしていたので、周りに乗り合わせた御婦人たちも「こやつ、しゃっくりをしているな」と気づいたようだった。
(この私が、止めてさしあげようではないか)
すかさず、奥方様に横から接近し、かがんで下から上へと人差し指と中指を突き出した。見事に、2本の指が奥方様の鼻の穴にフィット。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
驚きまくる奥方様、驚きのあまり声も出ない。まわりも気づいたようだ。
「どうだ、止まっただろう?」
「フガフガー!!!!!」
しゃっくりは止まった。奥方様は鼻に指を突っ込まれてひじょーーーに不本意という風だったが、止まったものは止まったのである。
帰りの電車の中で「人前で鼻の穴に指を突っ込んではいけない」と説教されたものだが、当の奥方様も「いきなり電車の中で(私の)鼻毛を抜いて窒息しそうなほど笑いころげた」という前科を持っている。
いいことをしたあとは気分がいい。うむっ!