メーラーという存在を疑ってみる

メーラーというアプリケーションがある。日常的に多くのユーザーが接しているものであり、Webブラウザよりもよりも使用時間は長いことだろう。

いまさら説明するまでもなく、メーラーはメールを読み書きするためのソフトウェアだ。だが、それだけしかできないバカソフトだ。それ以上でも以下でもない。人間でいえば、小学校1年生レベルといったところか。言いつけは守れるが、悪い大人の誘惑に負けたりする。

常日頃からWebブラウザについては「最低のアプリケーション」と公言してはばからない自分であるが、メーラーにも爆発寸前のレベルまで不満が高まっている。なぜ、これでメーラーのユーザーの暴動が起きないのか不思議でたまらない。まあ、起こそうとしてもどこに殴り込みに行くのかが皆目分からない。

昨今はスパムメールの流布が盛んで、スパムをいかに防ぐか、フィルタリングするかが人々の関心の中心になってしまっている。だが、そんな「後ろ向き」な話だけでは進歩も何もあったものではない。

よくよく考えれば、メーラーというソフトも、開闢(かいびゃく)以来ほとんど本質的な機能が変わっていない。きわめて原始的な形態のまま現代まで生き残ってきたカブトガニかシーラカンスのような存在だ。

自分が最初にさわったメーラーはSPARCstation IPX上のOpenWindowsについていたオマケメーラーだった。NeXTのメールも同じぐらいの時期にさわっていたかもしれない。その後、WindowsのメーラーやらMacのEudoraを使うようになった。現在はMac OS X上のEntourage v.2004だ。

しかし、この間……メーラーがとりたてて進化したこともなければ、あっと驚く新機能を搭載してきたこともない。見た目をカスタマイズしやすいメーラー(ARENA)とか、スパムフィルタが賢いとか、検索するのが便利(Mail.app)とか、1メール1ファイルを徹底する(OME)とかいうものは多々あれど、そんなもん本質的には進歩がまったくないのと等しい。

世の中には、こまっかいミクロン単位の差異をもって「満足できるのできないの」と論じる御仁であふれかえってはいるものの、キロメートル単位や光年レベルの機能の飛躍や進歩を語れる人にそうそう会った試しがない。

キロメートル単位の観点からすれば、単に文字の固まりを送受信して、メールボックスの振り分けを行ったりスパムフィルタを行うぐらいの、それはそれはつまらないゾウリムシのような存在。それがメーラーの正体だ。せいぜい、この二十年あまりでミリ単位やセンチメートル単位の進化を遂げただけの存在にすぎない。

日常的に「なんでこういう機能がメーラーにないんだろうねぇ」と思っているものは山ほどあるが、「話題フロー解析」や「発言傾向分析」といった解析系の機能が欲しいように思う(QuartzComposerを使って3Dでグラフ表示させたりする)。メールの話題を1つのフローとしてとらえ、誰から誰に、どのようにメールの流れが生まれているかを、受信メールから解析して可視化してくれたりするとさらに便利だ。

あとは、ボイスメールについて考察しているときに思ったのだが……この際、文面と属性情報は分けてしまったほうがいいんじゃないだろうか? 文章の中に大事なこと(会議の日時や参加者)は書かず、添付のvCalendarファイルなり、vCardファイルなり、GPSの位置情報ファイルなり、URLファイルなりを参照してくれという運用にするのが正しい(Entourage同士とかMail.app同士ならこれに近いことができている)。

ちょっと脱線するが、5年ぐらい昔にAppleScript系のMLで「MLにスタイル付きのメールを流すのを許容すべきか否か」ということで揉めたことがあった。自分は容認派だった。AppleScript系のMLだったので、プログラムが色分けされていないと読みにくいことこのうえなく、スタイル付きのメールは必須だと考えていたからだ。

そのための投票CGIまで用意して決まで取ったのだが、僅差(というよりも周りの出来レース?)で意見は通らなかった。相手はその筋では大御所レベルの人間だったが、今はもうそんな人の世話にならなくても済む時代になった。誠に結構なことである。いまやUS AppleのMLもすべてスタイル付きのメールが流せるようになっている。

話を元に戻そう。

属性情報を本文から分離することで、初めてメールが本来のポテンシャルを発揮できるように思える。もちろん、偉い人たちは大昔からそう考えているんだろうが、末端の実装がぜんぜん追いついていない。さらに、メールの内容が「肯定」なのか「否定」なのか、「態度保留」なのかを必ずメールに属性情報でマークさせるのだ(マークしていない文章は送信させないぐらいの断固たる態度が重要だ)。

メールの返信文章を組み立てるために自然言語解析テクノロジーを用いて文面の解析といったことも試してみないではないのだが、よーーく考えればそんなに苦労なんかしなくても、最初からメールに属性情報が付いていれば、メールへの返信なんか属性情報の固まりを返せばいいだけだ。必死にメールの文面を解析する必要なんてなかったのだ。

メールというものを、文面を読まなくても、属性情報だけで判断可能な存在にしてしまおう。興味があったら挨拶程度に文面も見ておく、ぐらいか。

「重要度」といった属性情報もメールには用意されているが、残念ながらほとんど有効に活用されているのを見たことがない(上司からのメールはすべて最重要、とか)。だいたい、こうした属性情報を「要度度」といってしまうと、みんな最重要で送ってくるに違いないのである(もしくは無視するかまったく使わないかだ)。こういう規格をすべて変更させるには、IETFに案を提出して決を取らなければならないのだろうか。誠に気の長い話である。

あと、一度送信したメールをキャンセルできないのは痛い。Notesのシステムなどでは削除できたりもするが、SNSのメッセージなどもバカの一つ覚えのように送信済みメールを削除できなかったりする。サーバーにユーザーがアクセスしているシステムなんだから、そのぐらいできてもよいと思うのだが、いかがなものか?

メーラーに話題を戻そう。

情報伝達メールと、制御用のメールの2種類に分けてしまい、制御用メールを受信したら送信者本人なら文面に書かれている制御用コマンドを受け付け、過去の送信文章を削除ないしは変更するのだ。これで、訂正や取り消しが可能になる。これでメールも1メートルぐらいは進歩するだろう。実は、Entourageはこれに近い制御をする。スケジュールの確認のためだけなのだが、すごく便利だ。これをメール文面の「修正」や削除にまで拡張するのだ。

ただし、セキュリティ上もんんんのすごく問題になりそうな気がするので、メールの本体を消去することはしないし、送信者本人であるかの確認をきちんと行う仕組みが必要だ。また、実際に実装が普及するまでには数年を要するだろう。

こうしたアイデアは、マイクロソフトの研究所レベルでは絶対に「とっくの昔に」議論されているに違いない。しかし、実際の製品ではそれらの多くが削ぎ落とされてしまうというのは、一体何なんだろうか。ものすごく効率が悪いように思うのだが……。

これを一般のメールではなくボイスメールの世界で一足先に行っておくのだ。土俵が違えば、既存のものに気兼ねする必要もなくなる。一般の世界にこうした属性データだらけのメールが出ていかないようにすればいいだけの話だ。

こういうのの実験プロジェクトを行ってみたい。いま、企画書を書いている最中だが……未踏プロジェクトとかで通ったりしないだろうか。はて。

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