LonghornにWinFSを搭載しない決定

意外といえば意外、納得といえば納得。

……マイクロソフトが次期Windows、コードネーム「Longhorn」にメタデータを使用した有機的なドキュメント検索機構を備えたファイルシステム「WinFS」の搭載を見送ったという件についての感想だ。
http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000050154,20071606,00.htm

このWinFSによってもたらされる筈だった機能は、大まかに分けると「アプリケーション間のデータへの相互乗り入れ」と「ドキュメント検索機能の向上」の2点になる。


「アプリケーション間のデータへの相互乗り入れ」については、以前から疑問を抱いていた。ひとつは、そんな大規模な仕組みを用意しなくても、同等の機能は実現できてしまうのではないか、という疑問だ。


マイクロソフトとしては、自社ソフトウェア製品であるMicrosoft Oficeのソフトウェア間でデータの相互利用を図ってきたし、Officeと連携するサードパーティのソフトに対しても、Officeの各アプリケーションのXML記録フォーマットをサードパーティに公開することで、シームレスな連携を取ることは可能だからである(互換ソフトを手軽に作られてしまう危険性もあるわけだが)。


もうひとつの疑問は、それほど大規模な改訂をシステムに加えても、対応アプリケーションの数はすぐには揃わないだろうし、それをユーザーに周知させるのにも時間がかかるだろうということだ。つまり、手間がかかる割にそのメリットが見えにくい技術であることが見て取れるのだ。


一方、Mac OS X 10.4「Tiger」では、このメタデータの記録については、メタデータ記録プラグインを既存のアプリケーションに組み込む手段を提供することで、最低限の労力で既存のアプリケーションをメタデータ検索に対応できるようにした。


このやり方だと、書類の記録フォーマットを全面的に改定する必要はない。従来のファイルフォーマットのままでメタデータ検索が行えることになる。Mac OS Xの場合、アプリケーションの相互連携は、すでに1993年の段階でAppleScriptという形で実装されているので、新たに相互連携の仕組みを付加する必要性が低いということもある。


ただし、どの程度の情報がメタデータ化されるかについては、アプリケーション開発者のさじ加減次第ということになる。書類情報をまるごとメタデータにする人もいれば、概要程度しかメタデータ化しない開発者もいるだろう。


一例として、メーラーを引き合いに出してみると……日付とSubject、送信者といった情報はメタデータ化されるかもしれない。しかし、メッセージの本文までメタデータ化されるとはかぎらないのだ。メタデータ作成のための手間と所要時間が大きなものになるのなら、それは省略されるかもしれない。


また、「ただ検索するだけでいいのか?」という問題もある。異なるアプリケーション間で相互の書類に対して、アプリケーションの起動を伴うことなくアクセスを行う、というあたりにもっと大きなメタデータ採用メリットがあるはずで、Longhornがこのレベルの機能を搭載することを期待していた。


ひとくちに言うだけなら簡単な機能だが、これをシステム全般にわたって採用した場合の波及効果がどのようなものになるかは、実際にテストを行ってみないと分らない。とくに、マイナス面での波及効果というものは見えにくいものだ。

今回、マイクロソフトがWinFSの採用を見送った理由として、


・作業の遅れ(WinFSを待っていたら2006年になってしまう)

・データベース技術ではなく、テキスト検索技術によって同様の仕組みは用意できる

・WinFSのサーバー対応は予定されていなかった


の3点が語られている。


おかしい、ドキュメントの透過的なアクセスという点がすっぽり抜けている。結局、目に見えにくく、一部の機能しか使いこなせていないエンドユーザーにはメリットが理解されにくい「有機的な連携」は見送り、デベロッパー向けの開発キットとして用意するにとどまるという。


「検索」という観点からしか話が進められておらず、明らかに主旨のすり替えが行われたことが感じられる。


ただし、3つの理由を総合して考えると、


「サーバー対応を行おうとしたら、技術的な課題、もしくはセキュリティ上の課題に直面して、それを予定通りに解決するのは困難であることが分った」


と読むことも可能だ。無論、当初からWinFXの機能はオフにすることもできたはずだが、その機構がOS上に存在するだけで潜在的なセキュリティ・ホールになり得ることが分ったのかもしれない。ことに、自社で提供しているInternet Explorerがサーバーの内部機能と連携する可能性を考えたときに、そこから悪意のあるプログラムがファイルシステムを構成するデータベースなど、OSの内部機構に外部からアクセスできてしまう可能性は否定できない。


穿った見方をせずに、そのまま納得したとしても「サーバー上にあるデータベースの所有権、クライアントマシンから一斉にアクセスのリクエストがあった場合のパフォーマンス」などなど、LAN上のファイルサーバーとして運用した場合の疑問点はある。


ただ、データベースを利用したファイルシステムについては、アナウンスされながらも何度も採用が見送られた経緯があり、「まだできていない」という言葉を鵜呑みにするのは難しい。


ここに物事の本質を見いだすとするなら、


「機能がいたずらに複雑化しすぎて、波及効果が予測し切れなくなった」


ということになるだろう。これまでのOSでも抱えていた問題が、機能のレベルをアップさせることで何倍にもなり得るということだろうか。


だからこそ、あえてWinFSを搭載してほしかった気がするのだ。そんな壮大な「実験」が行えるのは、マイクロソフトぐらいのものだ。その結果を興味深く分析させてもらうのは、非常に楽しいことだ。


その悪影響が及ばない外野から、余裕で見物できるはずだっただけに残念である。

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