ザ・中央線帰宅サバイバル

帰宅中、中央線の車内でアナウンスが入った。青梅線で架線が切れて、全線が不通になったという。車輛故障や信号故障、人身事故に中核派ゲリラの襲撃と、ありとあらゆるトラブルを経験してきたが、こんなのは初めてだ。

ちなみに、大学1年生のときに、同じクラスの「同級生」としてこの中核派ゲリラに参加して逮捕された人がそのまま在籍しているとの説明を受けた。ゲリラに参加した時には法政の市ヶ谷キャンパスの学生だったのだろうが、その後、経済学部が八王子と町田市の間の山の上に移転したので「山奥の大学から襲撃したゲリラ」みたいな図式になってしまっていた。山岳ゲリラ?

大学時代の昔話に花を咲かせている場合ではない。現実逃避している私の目の前では怒号が飛び交い、人々がなすすべもなく電光掲示板を不安そうに見つめている非常事態の光景が展開されているのである。沈着冷静な決断力と大胆な行動力が求められる場面だ。なんといっても、自分の帰宅がかかっているのである。うむっ!

とはいうものの、立川で中央線から青梅線に乗り換えられないと帰宅不能だ。とりあえず、立川駅で家に電話して帰宅が遅くなる旨伝えた。

まずは、折り返し運転を行っているとされる拝島までたどり着かなくてはならない。拝島へはモノレール-西武線を経由する「北回りルート」と、中央線で八王子まで南下して八高線で北上する「南回りルート」の2つの迂回ルートがある。

八高線は21世紀を前にした1996年3月にようやく電化された、首都圏における超ド級のローカル路線。私が大学生の頃ですら、ディーゼル車が轟音を立てながら走っていた(逆にちょっとうらやましかった)。ようやく電化はされたものの、依然として単線なので20分に1本ぐらいしか電車が通っていない。ここは迷わず運転間隔の短い北回りルートを選択だ。

モノレールに乗り換え、西武線を乗り継ぎ、青梅線の拝島に着いた。立川駅のアナウンスでは青梅-拝島間は運転しているというふれ込みだったのだが、電話で奥方様に「それも怪しい」と伝えたとおり、拝島に着いたら拝島-青梅間もストップ。復旧の見込みが立っていないという(またかい!)。

駅員に詰め寄って状況を確認する人、改札で駅員を怒鳴りつける人……かなり危険なものを感じたものだが、警察が介入して事態の収拾に乗り出していた。ハンドマイクでJRよりも詳しい状況説明を行っている。こんなことは初めてだ。誰かが気を利かせたのか、それともJRの危機管理マニュアルにそのように書かれているのか。

そのほか、どーでもいいことだが、わざわざ何も分からなさそうな新人駅員に「いや〜、僕も分からないんですけど」と説明させているあたりにJRの確信犯的な悪意を感じるものである。乗客に対して、自らも事故の被害者であるという状況をアナウンスすることで、乗客が攻撃的になることを防ごうというのだろう。安っぽいシナリオだ。ただ、陳腐ではあるものの着実に乗客をクールダウンさせるという効果を上げていた。

とりあえず、状況分析と連絡のために拝島駅前の喫茶店に移動。帰宅がかなり遅くなりそうなので、先に寝ているように連絡。PowerBookを開いて、他のルートがないか、コーヒーを飲みつつ落ち着いて検討してみた。その日は偶然PowerBookを2機持っていたので、いざとなれば5時間ぐらいは喫茶店に篭城できる状態だったのだ。映画のDVDが最低でも2本はエンジョイできる環境である。

ロータリーと駅を見下ろせる絶好のロケーションにある喫茶店から、冷静に状況を分析した。拝島駅は駅前ロータリーも手狭で、JRの改札がある南口はタクシーすら入ってくるのが困難だ。ましてバスなどロータリーに入ってくること自体が難しい。とてもバスによる振替輸送ができるような場所ではないので、振替輸送は行わないものと見た。ちなみに、西武線側の北口は「なかったもの」として扱われている。あまりに駅が巨大なので、北口は存在を忘れられがちだ。

PowerBookを開き、自力で帰るとしたら(タクシー以外に)どのような方法があるかを調査。こんな時に、いやこんな時だから役に立つ「駅すぱあと」。最近のバージョンではバス路線も検索できるのだ。

秋川経由でバスを乗り継ぐ「山越え南ルート」は電車で15分あまりの道のりに3時間以上かかる。青梅線沿いのバス路線を乗り継ぐ「飛び石ルート」も2時間30以上かかると出た。しかも、この夜遅くにず〜っとバスの停留所で待ち続けなければならない。

つまり代替交通手段も何もあったものではなく、ここは、何らかの方法で拝島-青梅の運転を早期に再開させる、あるいはそれを待つしかないと判断した。

拝島駅には引き込み線があって、予備の車輛を常備してある。西武線で拝島駅に着くときに予備車輛の存在を確認していたので、これを出してくるものと見た。30分ほどたったころに駅に戻り、状況を分析。

構内アナウンスによれば、ほどなく拝島-青梅間を運転再開させるらしい。JRらしいやり方だ。状況を悪めにアナウンスしておいて、その間にリカバリを行い、アナウンスよりも早めに状況が推移するのだ。アナウンスをそのまま信じてはいけないのである。まあ、善意に解釈すれば「現場同士で連絡がうまく行っていない」とも取れるわけだが、結果論でいえば「いつもウソのアナウンスをしている」とも受け取れる。

良さそうなことを言って遅れるよりもマシということだろうか? 乗客は正確な情報を望んでいるのだが、「正確な情報を出すと逆に混乱と不満を招く」という判断がなされているのではないか、と勘ぐりたくもなる。

引っぱりだしてきた予備車輛に乗り込み、なんとか帰宅にこぎつけた。9:30ごろだったろうか。このような大規模なトラブルに見舞われた割には驚くほど早く帰宅できたほうだ。

……だが、この件がほとんどニュースで取り上げられていないことに不自然さを感じる。たまたま、やんごとなき方の結婚報道の日だったので、枠がなかったのか。それとも報道規制をかけているのか、もはや電車の故障など珍しくもないのか(架線が切れたんだよ??)、中央線の支線だから扱いが低くニュースバリューがないのか、真相はよく分からないが……。

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