NeXTstep

NeXTは、自分と縁(えん)がさなそうで縁がある、不思議な環境だ。関わりは多かったように思うが、自分で手に入れることはなかった。

月刊誌の編集部にいた時分に、編集部内にNeXTCubeが2台ほど転がっていたので、どういうものかとたまに使っていた。最初に触ったWSはNEWSで、次にSPARCstation IPX。NeXTはその次ぐらいだろうか。WSを使うといっても、当時はデスクトップUNIXの可能性について模索していた時代でもあったので、あくまで「ちょっと使いづらい風変わりなパソコン」ぐらいにしか思っていなかった。

編集部のNeXTにはPSプリンタがつながっており、用紙がなくなると声で知らせてくれてびっくりしたものだ。その割に肝心の漢字変換がもたついたりして、どういうバランスで作られているマシンなんだろうと苦悩した。付属のピンボールはものすごくよくできていた気がするので、デモ用に特化した味付けという感じなのだろうか。

たまたま職場からキヤノン販売が近かったので、いろいろとNeXTの部隊に遊びに行ったりもしていた。ちなみに、キヤノンでデベロッパーサポートをしていたS氏とは、後年、AppleのUG懇親会で再会。つくづく世間は狭いと感じた。

インテル版が登場したときに「インストーラの残り時間が不正確」とライター氏が憤慨していたものだが、その伝統(?)はしっかり初期のMac OS Xにも引き継がれていた。いまはそういうことはないが、これは残り時間ではなく残りの作業のパーセンテージを出すという方式に改めたためだ(当時よりもCPUが格段に速くなったということもあるだろう)。

インテル版はグラフィックアクセラレータの機能を使えなかったので、ウィンドウの再描画が見たこともないほど遅かった。あれでよく商品化したものだと(悪い意味で)感心した。ただ、内部処理はCPUのおかげで速くなっていたようだ。

やがて、OPENSTEPが登場し、SPARCstationに載った姿を記者発表会で見て、かなり欲しくなった覚えがある。いまのSPARCstationはPC/ATと見分けがつかないが、昔のピザボックスタイプの筐体には美しさがあった。OpenWindowやMotifではなく、NeXTのルック・アンド・フィールでSPARCstationが使えるということに驚きがあった。

InterfaceBuilderのデモだったと思うのだが、画面を作成して、データベースのフィールドを線でつなぐとすぐにデータベースの検索アプリケーションができてしまうというものがあった。コードを書かなくてもこれだけのことができるのか! という驚きがあった。

GFBaseなど、割と食指をそそられたアプリケーションもあったのだが、キヤノン純正のワープロ「文机」が12万円也! という世界だったので、よほどの物好きでなければ(よほどの物好きでも)、個人で運用できるものではなかった。知り合いに何人かそういう人もいるが、すでに俗世間を超越してしまっておられる方がほとんどだ。

かくして、AppleによるNeXT買収……というよりも、NeXTによるApple乗っ取りによって、Mac OS Xが誕生した。ハードウェア担当も、OS担当もCEOも、みんなNeXT系というのがここ数年のアップルである。ルービンシュタインも、テバニアンも、みんなNeXT出身である。

文字端末は好きではないので、UNIXベースのMac OS Xへの移行はずいぶんと懸念していたものだが、10.3でようやくなんとかサマになってきた感じがする。次に期待できるレベルといったらよいのだろうか、そういう感じである。

まるで、恐竜が進化して鳥になったように、NeXTもMac OS Xとしていまここにある。Xcode(Project Builder)とInterface Builderを使って、AppleScript Studioのプログラムを作っている自分がここにいる。

結局、私はNeXTを買ったということになるのだろうか? 人は鳥を恐竜とは呼ばない。やはりNeXTは遠く手の届かない存在だったのだろう。

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