激震! 湯煙ただよう温泉業界!!

白骨温泉で温泉に入浴剤を入れていたことが発覚し、観光客が激減。観光客からの「屋外の温泉だけ白くなっていない」との指摘からプレッシャーを受け、追い込まれた末に行われた行為ではあったのだが、身勝手な消費者はこれを不服として、白骨温泉を訪れる観光客は激減した。

長野県では、田中康夫知事を中心とした特別プロジェクトチームが結成され、事態の収拾につとめた。半年後には長野県内の温泉地の健全化宣言が出されるに至ったものの、「看板に偽りあり」「名前と実情の乖離著しい」などの世論が形成され、白骨温泉の凋落は決定的なものとなった。

時おりしも温泉への塩素投入などが問題視されていた頃でもあり、温泉地全般から消費者の興味がうすれつつあった。一時期は国内観光の王者の座をほしいままにしていた温泉であったが、いまや国内観光の王者はキャンプや釣り。とくに、「バック・トゥ・ザ・ネイチャー」のキャッチフレーズのもと、非ブラックバス系の釣りが人気を博しつつあった。

白骨温泉観光協会では夜な夜な会合が行われていた。この劣勢をなんとか巻き返さなければ彼らに明日はない。

 「このままでは旅館や温泉の廃業も目前」
 「夜逃げするしかないのか?」

沈痛な面持ちの一同の中、酒屋のトクさんが赤ら顔で口をひらいた。彼も景気低迷の影響を受けた一人で、売り上げが3割落ち込んだのと対照的に、事件後は酒量が3割ほど増えたとされる。

 「銀行も、調子が悪くなると公的資金が投入されてる。観光業についてもそういうのはねえのか?」
 「それはねえなぁ」
 「じゃあよぉ、銀行みたいによそと合併したらどうだ?」

銀行の合併吸収はめまぐるしく、「すでに銀行がランドマークとして機能する時代ではなくなった」と地図屋が嘆くほどだ。

そんなバカなと失笑を買ったトクさんの意見だったが、翌日「意外といい意見かもしれない」と再検討されるに至った。すぐさま合併先の打診が行われ、草津温泉との合併が秘密裏に進められた。

しかし、秘密裏の打ち合わせといっても飲み屋で大声で行われるため、じきにマスコミに話がバレた。

 「白骨温泉、草津温泉に吸収合併。新名称は草骨温泉か?」

この話にまっさきに反応したのが、同様に苦境にあえいでいた全国の温泉である。日本全国に数千あるといわれている温泉の中で黒字を維持しているものはごく一部。すがれる神あらばいくらでもすがりたいという状態だったのだ。

湯布院、草津、道後、鬼怒川、下呂、伊香保、有馬などの国内有数のブランドを軸に日本国内の温泉の吸収合併が相次いだ。

昨日まで「○○温泉」といっていたところが、「ウチは今日から別府温泉盛岡支店だ」などと言い出したものがからサァ大変。ほかにも、北海道の奥地に四国の道後温泉の系列温泉が出来たりと、わけのわからない状態になりつつあった。

台湾からの温泉ツアー一行を乗せた観光バスが、目的地の温泉を見つけられず、真冬の山中で立ち往生するといった事件も起き、無意味な改名は無用の混乱を引き起こす、といった批判も行われるようになった。

そんな最中、テレビ出演した地質学者が、無責任に、

「基本的に温泉の元は地熱である。地熱は地球内部のマグマの浮上によってもたらされている。マグマは全世界的につながっており、源は1つといってよい。地球上のどこの温泉も元をたどれば1つだといっても過言ではない」

などと発言。この発言を受け、事態はさらに混迷の度を深めることとなった。秋田県の奥地の温泉がオーストラリアの温泉と提携したりとわけのわからない状況が日本全国に出現したのである。

かくして、日本伝統の文化を守る「古きよき温泉」が国内からほとんど消滅し、北海道の奥地に温泉のネオンサインが光り輝くという事態。一時的に観光客は増加したものの、「どうせならもっと身近なところで」と消費者が近場で同様のものがないかと意識し出した結果、街中にある昔ながらの公衆浴場がリバイバル・ブームに乗って人気を博した。

さて肝心の白骨温泉はといえば、ほとぼりが冷めた頃に「白骨温泉でも使用、万能入浴剤!」と銘打って自分たちが使っていた入浴剤を白骨温泉ブランドで売り出し、テレビショッピングで人気を博したため廃業を免れたという。

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