HyperCardの末裔たち(1)

自分がMacを使い始めたのが1992年ごろだったので、ちょうど12年ほど経つ。最初のマシンはIIsiで、当時はマシンの使い方を説明するHyperCardのスタックが添付されており、それを見ながら各部の名称や基本的なソフトの使い方を覚えた。

紙のマニュアルも添付されていたが、アニメーションをふんだんに使ったHyperCardのマニュアルは、それだけでも「買ってよかった」と思わせるものがあった。

しかし、どうも自分はHyperCardとは縁がない。当時も、いろいろとHyperCardの書物をあたって見た記憶があるのだが、国内の書籍を読んでもさっぱり理解できなかった。

言語処理系と画面はどのようにつながっているのか、変数の扱いはどうなっているのか、ループ処理や条件分岐はどのように記述するのか、デバッグはどうやるのか……などなど、自分が知りたい情報を書籍で見つけることができず、代わりに、Paint機能でお絵描きをしようとか、カード型データベースで住所録を作ろうとか……。

あれは、書籍や記事がよくなかったのだと思っているが、使えていた人も大勢いたわけだから、当時の自分には理解できなかったということは認めざるをえないだろう。

HyperCardのスクリプティング言語をHyperTalkという。HyperCardの命令は、すべてHyperTalkで記述するということになる。

後年になって、HyperTalkのサブセットであるAppleScriptについては、非常によく理解できた。HyperTalkが持っていたGUI系の命令(メニューを作るとか、ボタンにマウスカーソルが乗ったときのイベントを処理するとか)は一切取り払われたものなので、命令体系は非常にさっぱりしたものだ。

AppleScriptの学習を行っている過程で、HyperCard自体がAppleScriptにも対応していることを知り、「ASからコントロールし甲斐のあるアプリケーション」として興味を喚起されたが、それ以上でもそれ以下でもなかった。

Mac OS Xの時代になって、NeXT時代から引き継がれた開発環境「ProjectBuilder」「InterfaceBuilder」が、開発言語のひとつとしてAppleScriptを扱えるようになった。俗に言う「AppleScript Studio」である。AppleScript Studio上では、GUI系の命令やアプリケーション内部のイベントなどが追加された。

HyperTalkーGUI系命令であるところのAppleScriptが、AppleScript Studioという限定された環境下ではあるものの、ふたたびGUI系の命令を備えるに至った。AppleScript Studioをして「HyperCardの復活」を唱える声も一部にはあったが、真っ向から否定された。

だが、「HyperTalkが復活した」とはいえるのかもしれない。かなりいかつい開発ツール群の中に押し込まれてはいるものの、HyperTalkの一番濃い血統は、今も間違いなく生きているのだ。

Copyright By Piyomaru Software. All Rights Reserved