情緒的抽象的時間認識

以前、Mac OS X上の日付フォーマッタの「Allows Natural Language」……ふつーに言葉で入力してもええですよー、というオプションについて触れた。時間については、

 00:00 midnight 真夜中,夜
 12:00 noon/lunch お昼,昼,
 10:00 morning 朝,午前
 14:00 afternoon	 午後
 19:00 dinner 夕食


と指定できるようになっていることも追加で確認した。


ひとことに「真夜中」といっても……たしかに0:00は真夜中という時間帯には属するものの、0:00が真夜中の代表選手かといえるものだろうか。0:30に真夜中を感じる人もいれば、1:05ぐらいに真夜中さを感じる人もいるだろう。


「真夜中」というのは、かくも漠然として1点として指定することの難しい、情緒的かつ抽象的な時間の範囲を示す言葉であることが分る。その特徴は、人によって具体的にどこからどこまでが真夜中であるかの認識がバラバラであり、最も真夜中を感じる時間もバラバラだということだ。


生活習慣の違いや、育った場所など、おそらく個人ごとに千差万別な定義を無意識のうちに行っているものなのだ。そんな「いいかげん」な認識を積み上げることによって思考が行える人間の脳というのは素晴らしい。


「そこそこいいかげん」な認識を持ち寄っても、それほど認識にズレが生じないのは、おそらく言語的文化的習慣的な囲い込みもあるとは思うのだが、人間の脳自体がそういう「いいかげん」な情報から「こんな感じじゃないっすか?」という結果を導き出すことができるメカニズムを持っているからだろう。


  「3ぐらいと10ぐらいを足した結果はどのくらい?」


という問いに「14ぐらいかな」と答えられるということだろうか。「ぐらいって何だよ?」と切れてしまう人もいるだろうが、この「いいかげんさ」こそが高度な能力の現れなのだろう。


こういう情報をコンピュータで処理するために、それぞれの時間帯や範囲を表す言葉について、具体的にどのぐらいか明示的にリストを作ってみた。


まずは時間である。例のAllows Natural Languageを尊重してリストを作ってみた。


■相対的情緒的時間指定
午前   0:00:00〜11:59:59
午後		12:00:00〜23:59:59
午前中		朝から昼まで
昼下がり	1:00〜3:00
夕方		16:00〜19:00(日没)まで
夜			19:00〜0:00
夜中		23:00〜2:00
真夜中		0:00〜3:00
朝			4:00(日の出)から10時ぐらいまで
昼			11:00から14:00ぐらい。昼食時間+前後1時間ぐらい
昼間		日が出ている時間帯。日の出から日没まで
夜間		日が出ていない時間帯。日没から日の出まで
早朝		4:00(日の出)から7:00ぐらいまで(出勤/登校前)


時間については、あまり悩まなくて済んだ。「昼」といったあたりでちょっと迷ったぐらいか。


これが日付になると、ものすごく悩む。
■相対的情緒的日付(期間)指定
大昔		10年以上前
昔			3〜10年前
以前		3か月前〜3年前
この前		1週間〜3か月前。この間との違いが曖昧。
この間		1〜3週間前。この前との違いが曖昧。
最近		1週間〜3日前
このところ	??????


こんなにいい加減に言葉を使っているとは自分でも思わなかった。具体的に「このところ」がどのぐらいのタイムスケールを指すのか、はっきりと定義できていない。しかも、この日付の表現には個人差が大きく、さらに男女間でも認識がずいぶん違うのだ。


これらは、人工知能インタフェース「Newt On」の検索用パラメータとして、初期設定でユーザーごとに定義できるようにと考えているものだ。実際に命令として受け付けるとしたら、


 「この間の会議の資料を検索」
 「昔に会った女性の名前を表示」


……こういう感じか。ここで、「この間」という言葉に「1Week〜3Month前」と定義してあれば、その期間中(プラス数パーセント足したぐらい)の範囲を検索することになるだろう。


「昔に会った」というなら、3〜10年前のメールやスケジュールを検索し、なければ1年前ぐらいまで過去から順に会ったことのある女性をリストアップすることになるだろう。


加えて、人名をピックアップしても、それが男性であるか女性であるかは、辞書に総当たりで検索をかけなくてはならない。


こうした時間範囲の認識については、きっちり大規模なアンケート調査を行ってみたいものである。きっと、腹をかかえて大笑いできるような傾向が見いだせるはずだ。
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