200X年、突然の海面上昇の末に

それは信じられない規模の自然災害だった。太陽の黒点活動がこれまでにないほどの増大を見せ、通常レベルの800倍の電波が地球を襲った。

テレビやラジオは壊れ、コンピュータは焼け、GHzクラスの電波を扱う携帯電話は何の役にも立たなくなった。


おまけに、突如として極地の氷が溶けて、一気に地球の海面は70メートルも上昇したのである。


私は、たまたま東京の田舎に住んでいたために難をのがれ、相方と励まし合いながら高い方へと逃れていった。


「停まれ、どこの者だ?!」


不意に遠くから声をかけられた。人に会うなんて久しぶりだ。しかし、挨拶代わりに猟銃をつきつけられた。物騒なところである。


「ここは連峰軍の直轄地である。その事を知っての狼藉か?」


水没のために政府は機能を停止、そのため、比較的標高の高い場所に生き残ったひとびとが自治を主張して日本各地は蛮勇割拠という状態になったのだ。
私は思わず聞き返した。


「連邦軍?」
「違う、連峰軍。八ヶ岳連峰軍だ」


どうやら、山梨県の八ヶ岳エリアに到達したらしい。見張りの男に連れて行かれて、行政ブロックについた。被害を受けた割には発電所や農業施設などが生き残っており、外部からの略奪さえ受けなければ生活を維持できる独立圏となっているらしい。ただし、化石燃料のたぐいは一切ないので車は利用できずにマウテンバイクや馬が主要な交通機関となっている。


入国審査局という看板がかかった市役所のような施設に連れて行かれた。気になったのは……施設内の事務処理にコンピュータが使われていることだ。しかも、古いMacばかりである。


「なぜ、こんな古いMacばかり使ってるんです?」
「太陽の黒点活動の影響で、GHzとか数百MHzというクロックのマシンがことごとくオシャカになったが、数MHz程度のマシンは被害を受けなかった。もともと八ヶ岳エリアにはこうしたマシンが多く転がっていたので、再整備して使っているのさ」


入国審査局の担当官と話をしながら、なるほどと納得してしまった。


「ときに、君は何か特技はあるかね? 入国の条件として八ヶ岳連峰に貢献できる人民ということがあるのだが」


ちょっと考え込んでしまった。ここを追い出されたら行くあてもない。なんとしても、メリットを強調しなくては。しかし、力もあるほうではないし、牛や馬の世話が焼けるわけではないし。


そのとき相方が、


「このひとはAppleScriptが使えます」


と言った。バカ! この、生きるか死ぬかの時にそんなこと言ってもしょうがないだろうに、と思ったその時……


「なにぃいぃぃぃ?!!」


担当官が顔色を変えた。


「なぜそんな大事なことを早くいわん! すぐに来るんだ!」


腕をつかまれて別の建物に連れて行かれた。


そこは、データセンターのような建物だったが、異様なことに、ラックに収まっているコンピュータはすべて古いMacだったのだ。


「ここでは、連峰の事務処理を一手に引き受けているのだが、Macの操作を自動化するための方法がなくて困っていたのだ。頼むから、自動化を促進してくれ」
なんということだろう。九死に一生とはこのことだ。そんなもんが自分の命を救うことになるとは……


かくして、マシンに向かってみると……


「うわっ! OSが漢字Talk 6.0.7だ!! これじゃあAppleScriptが使えない〜!!」


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